音楽出版社がAnthropicを提訴。2万曲以上の著作権侵害で損害賠償30億ドル超を請求。違法ダウンロードでAIモデルを訓練した疑い。米国史上最大級の著作権訴訟に発展する可能性。
音楽出版社がAnthropic提訴、2万曲著作権侵害で30億ドル請求
2026年1月29日、コンコード・ミュージック・グループとユニバーサル・ミュージック・グループを中心とする音楽出版社の連合が、AI企業Anthropicを提訴しました。訴状によると、Anthropicは2万曲以上の楽曲を違法にダウンロードし、AI製品の訓練に使用したとされています。対象となったのは楽譜、歌詞、楽曲の作曲など多岐にわたります。
出版社側は損害賠償額が30億ドル(約4500億円)を超える可能性があると発表しました。これは米国史上最大級の著作権侵害訴訟の一つとなる見込みです。Anthropicは対話型AI「Claude」を開発する企業として知られ、企業価値は1830億ドルと評価されています。
この訴訟は、以前に作家たちがAnthropicを訴えた「Bartz対Anthropic訴訟」と同じ法律チームによって提起されました。その訴訟では、著作権のあるコンテンツでAIモデルを訓練すること自体は合法とされましたが、海賊版サイトから違法にコンテンツを入手することは違法と判断されています。今回の音楽出版社の訴訟も、この違法入手の問題を中心に争われることになります。
訴訟の詳細と請求内容
音楽出版社側は水曜日の声明で、Anthropicが2万曲以上の著作権で保護された楽曲を違法にダウンロードしたと主張しています。これには楽譜、歌詞、音楽作品の構成などが含まれます。損害賠償額は30億ドルを超える可能性があり、これは集団訴訟ではない著作権訴訟としては米国史上最大級の規模となります。
訴状では、AnthropicのCEOであるダリオ・アモデイ氏と共同創業者のベンジャミン・マン氏も被告として名指しされています。訴状は「Anthropicは自らをAIの『安全性と研究』の企業と誤解を招く形で主張しているが、著作権で保護された作品を違法にトレント(ファイル共有)してきた記録は、その数十億ドル規模のビジネス帝国が実際には海賊行為の上に築かれていることを明らかにしている」と述べています。
背景と経緯
当初、これらの音楽出版社は約500作品の著作権侵害についてAnthropicを訴えていました。しかし、前述の「Bartz対Anthropic訴訟」の証拠開示手続きの過程で、Anthropicがさらに数千曲を違法にダウンロードしていたことが判明したと出版社側は主張しています。
出版社側は当初の訴訟を修正して海賊行為の問題を追加しようとしましたが、裁判所は2024年10月にこの申し立てを却下しました。裁判所は、出版社側が海賊行為の主張をもっと早期に調査しなかったと判断したのです。この決定を受けて、出版社側は今回の別個の訴訟を提起することになりました。
この訴訟は、Bartz対Anthropic訴訟と同じ法律チームによって提起されています。Bartz訴訟では、フィクションとノンフィクションの作家グループが同様に、AnthropicがClaudeのような製品を訓練するために著作権で保護された作品を使用したと訴えていました。その訴訟では、ウィリアム・アルサップ判事が重要な判断を示しました。判事は、Anthropicが著作権のあるコンテンツでモデルを訓練すること自体は合法であると判断しましたが、海賊版サイトを通じてそのコンテンツを入手することは違法であると指摘したのです。
前例となったBartz訴訟の結果
Bartz対Anthropic訴訟は、Anthropicにとって15億ドルの和解金という結果になりました。影響を受けた作家たちは、約50万作品に対して1作品あたり約3000ドルを受け取ることになります。15億ドルは相当な金額に思えますが、企業価値1830億ドルのAnthropicにとっては、事業を揺るがすほどの打撃ではありません。
この前例は今回の音楽出版社の訴訟にも影響を与える可能性があります。裁判所がAIモデルの訓練自体は合法と認めた一方で、コンテンツの違法入手については厳しい姿勢を示したことが重要なポイントです。今回の訴訟でも、Anthropicがどのように楽曲データを入手したかが争点の中心となるでしょう。
AI企業と著作権の問題
この訴訟は、AI企業が直面する著作権問題の深刻さを浮き彫りにしています。生成AIモデルを訓練するには膨大な量のデータが必要ですが、そのデータをどのように合法的に入手するかが大きな課題となっています。
現在の法的判断では、著作権で保護されたコンテンツでAIを訓練すること自体は必ずしも違法ではありません。しかし、そのコンテンツを海賊版サイトやトレントサイトから違法にダウンロードすることは明確に違法です。この区別は、AI業界全体にとって重要な意味を持ちます。
AI企業は、著作権者との適切なライセンス契約を結ぶか、パブリックドメインのコンテンツを使用するか、フェアユース(公正使用)の範囲内で利用するかなど、合法的な方法でデータを入手する必要があります。今回の訴訟は、違法な方法でデータを入手した場合の代償が極めて大きいことを示す事例となるでしょう。
私たちへの影響
この訴訟は、AI技術の開発者、クリエイター、そして一般ユーザーの全てに影響を与えます。AI企業にとっては、データ入手の方法を見直し、より透明性の高い運営を求められることになるでしょう。訴訟リスクを避けるため、著作権者との正式なライセンス契約を結ぶ動きが加速する可能性があります。
音楽家や作家などのクリエイターにとっては、自分の作品がAI訓練に使用される際の権利保護が強化される可能性があります。今回の訴訟が成功すれば、他のクリエイターも同様の法的手段を取りやすくなり、AI企業との交渉力が高まるでしょう。一方で、適切な補償体制が整えば、クリエイターの新たな収入源となる可能性もあります。
一般ユーザーへの短期的な影響としては、AI製品の価格上昇や機能制限が考えられます。AI企業がライセンス料を支払う必要が生じれば、そのコストは最終的にユーザーに転嫁される可能性があります。また、訴訟リスクを避けるため、一部のAI機能が制限されることもあるでしょう。
中長期的には、AI業界全体でより健全なエコシステムが構築される可能性があります。クリエイターが適切に報酬を受け取り、AI企業が合法的にデータを利用できる仕組みが整えば、持続可能なAI開発が可能になります。ただし、そのような仕組みが確立されるまでには時間がかかり、その間は法的不確実性が続くでしょう。
なお、Anthropicは今回の訴訟についてTechCrunchのコメント要請に応じていません。訴訟の行方は今後数ヶ月から数年かけて明らかになると予想されます。
