2026年8月28日、ITmedia エンタープライズに、AI投資の成果をどう評価するかという記事が掲載されました。記事は、従来のITと違ってAIは使えば使うほどコストが増えるのに、活用の指標としては利用者数や利用率を重視する企業がまだ多い、と指摘しています。
記事が引いているITRの調査「AI関連投資の前年度に対する増減」では、2024年度が56.6%、2025年度が52.5%、2026年度予想が54.0%という数字が示されています。投資は続いています。その成果を何で測るかのほうが、決まっていません。
そのうえで記事は、FinOps Foundationの「FinOps for AI」というワーキンググループが掲げる「Use Case Economics」(ユースケース単位の経済性)を紹介しています。どれだけ使われたかではなく、その利用によって何の価値が生まれたかを見るべきだ、という考え方です。
「今月は何人が使いました」という報告が、毎月続いている
これは要するに、社内の報告に載っている数字が、本当に見たかったものとずれている、という話です。AIを入れた会社の報告に最初に出てくるのは、たいてい利用者数と利用率です。数えられるからです。判断が速くなったか、やり直しが減ったかは、誰かが記録しない限り数字になりません。だから、数えられるほうが指標の席に座ります。
指標がずれていると全員が気づいているのに、その指標が交換されない。これは、AIを入れたときに初めて起きたことではありません。私は以前、業界全体がその状態になっている場所で仕事をしていました。
「その数字は来るのだが」と、発注する側も供給する側も思っていました
AIの話ではありませんが、指標がずれていることに全員が気づいていて、それでも変えられない、という状態を、私は一度、業界の内側から見ています。
その業界には、標準になっている指標がありました。発注する側も、供給する側も、その指標では本当の成果が測れないと薄々気づいていました。発注する側が抱えていたのは、「その数字は来るのだが」という不満と、疑問と、不信です。はっきり言葉にしている人もいれば、なんとなく感じているだけの人もいました。
それでも、指標は交換されませんでした。不満があるだけでは、指標は変わらないからです。代わりに何を見ればいいのかが、どこにも用意されていませんでした。
私がやったのは、代わりに測れるものを1つ用意して、小さく実測することでした。始まりは、月10万円程度の予算をもらうところからです。
用意したのは、単価の比較でした。従来の指標は、1件あたり2〜3万円です。ただし、その1件から実際に足を運ぶ人は、10人に1人いれば良いほうでした。そう置き直すと、実質の単価は1件あたり20〜30万円になります。新しい指標のほうで、月10万円の予算から1件でも実現できれば、単価はその半分に落ちます。この比較を持って、評価してもらいました。
新しい指標に向けられたのは、正しさへの疑いではありませんでした。「その難しい指標を、本当にクリアできるのか」という、実現可能性への疑いです。
この入れ替えが回ったのには、理由が3つあります。1つめは、新しい指標の単価で評価してもらうことを、最初から合意として設定していたことです。2つめは、予算を決める時期に決裁する人へ届くよう、毎月の報告を訪問して直接行っていたことです。3つめは、進め方が型になっていたので、若手が担当しても同じことができたことです。
単価を示していくと、予算は上がっていきました。翌年の予算策定の時期には、月10万円だった枠が50万円や100万円になりました。何年も動かなかったものが、代わりに測れるものを1つ出した月から動き始めたことになります。AI投資の成果を何で測るかという今回の話も、これと同じ場所で止まっています。
数えられる数字が、そのまま指標の席に座ります
指標がすり替わる原因は、現場の意識が低いことではありません。本質的な成果を測る材料が、その場に無いことです。
利用者数と利用率は、誰も取りに行かなくても自動的に集まります。ログに残っているからです。これに対して、判断が速くなったかどうかは、その時点で何を前提に決めたのかを誰かが書き残して初めて、後から比べられるようになります。書き残す人がいなければ、比べる材料は存在しません。存在しない材料は、指標になりません。
だから、材料を持たない側は、今の指標を批判することはできても、交換することはできません。私が見た業界で何年も指標が動かなかったのも、発注する側に代わりの材料が無かったからです。不満は全員が持っていました。持っていなかったのは、代わりに置ける数字のほうです。
今回の記事が、使われた量ではなく生まれた価値を見るべきだと書いているのは、評価の考え方を入れ替えろという話であると同時に、入れ替えるための材料を先に作れ、という話でもあります。
明日から、費用をかけずにできること
代わりの指標を1つだけ決めます。全部を置き換えようとすると決まりません。1つです。たとえば、ある業務について、決めるまでにかかった日数を記録する。差し戻された回数を記録する。この程度で構いません。
次に、実測する範囲を狭く決めます。1つの部署、1つの業務、1か月。この範囲なら、記録する人も特定できます。
そして、今の指標を否定しないことです。利用率の報告はそのまま続けて、その隣に新しい数字を並べます。並べるときは、時間か金額に直します。何時間かかっていたものが何時間になったのか、そこにいくらかかっているのか。この形にすると、読む側が比べられます。
最後に、決めたときの前提を1行だけ残します。何を見て、何を決めたのか。この1行が無いと、翌月に数字だけを見ても、良くなったのか悪くなったのかを判断できません。
ここから先は、会社ごとに答えが変わります
ここまでは一般論として書けます。ただ、何を代わりの指標に置くのが良いかは、会社の状況と、そこで回っている業務によって変わります。決めるまでの日数が効く会社もあれば、差し戻しの回数のほうが効く会社もあります。ここは一般論では出せないので、御社ならどれを置くのが良いかを、一緒に考えるところになります。
もう一つあります。新しい指標は、測る側の努力だけでは成立しません。私が指標を入れ替えたときも、日程を早く確定して知らせてもらう、掲載する情報を早めに出してもらう、といった準備を相手の社内でしてもらう必要がありました。どの数字なら自社で取りに行けるのかを先に確かめないと、決めた指標が動きません。
私自身、AIだけを使って10時間分の教材を一人で作り切ったことがあります。同じAIを使っても、中身の無いものを量産する人と、通用するものを作る人に分かれます。差は性能ではなく、渡した前提の量と精度でした。指標も同じです。
30分だけ、代わりに置く数字を1つ決めませんか
いま御社が成果として報告している数字を教えてください。30分で、その隣に並べて置ける数字を1つ、一緒に決めるところまでやります。その場で提案や見積もりは出しません。持ち帰って社内で試せる形にして終わります。
お問合せは簡単です。以下の問い合わせフォームに、お名前などの必要事項と御社のURLと社員数と現在お困りの事象について、できるだけ具体的にお書きください。その上で、希望の日時を3つほど書いてお送りください。後ほど、こちらからメールにて返信をさせていただきます。
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