Anthropic、AI実装支援企業Odeを15億ドルで設立――次の1兆ドル市場は「モデル」ではなく「導入支援」

AnthropicとBlackstoneが共同で、AI実装支援企業Odeを15億ドル規模で設立。企業へのAIエンジニア派遣を通じて、AI導入を加速する新ビジネスモデル。次の1兆ドル市場はモデル開発ではなく実装支援にあるとの見方。

Anthropic、AI実装支援企業Odeを15億ドルで設立――次の1兆ドル市場は「モデル」ではなく「導入支援」

2024年5月、AI開発企業のAnthropicは、投資会社Blackstoneなどと共同で、AI実装支援企業「Ode with Anthropic」を設立しました。この企業の評価額は15億ドル、日本円で約2,100億円に達します。Odeは、企業の現場にAIエンジニアを派遣し、AI技術の導入を支援する事業を展開します。この動きは、OpenAIが同様の事業「The Deployment Company」を立ち上げたことに続くもので、AI業界の大手企業が「優れたAIモデルを作るだけでは不十分」と認識し始めたことを示しています。Anthropicの最高経営責任者らは、この事業が将来的に1兆ドル規模の市場になる可能性があると見ています。企業がAI技術を実際のビジネスに組み込むには、高度な専門知識を持つエンジニアの支援が不可欠であり、その需要は供給を大きく上回っているためです。この新しいビジネスモデルは、AI技術の普及において、モデルの性能向上と同じくらい、あるいはそれ以上に「実装支援」が重要であることを物語っています。

Odeの設立経緯と事業規模

Odeは、Anthropicが単独で立ち上げた企業ではありません。投資会社のBlackstone、Hellman & Friedman、Goldman Sachsなどが共同出資者として参加する合弁事業です。この構想は、もともとBlackstoneが自社の投資先企業にAI技術を導入しようとした際に生まれました。Blackstoneは大手コンサルティング会社や小規模なAIサービス企業に依頼しましたが、その中で特に優れた成果を上げたのが、AIエンジニアリングサービスのスタートアップ「Fractional AI」でした。

Fractional AIは、企業にAIエンジニアを派遣し、実際のビジネス課題を解決する支援を行っていました。その実績が評価され、Odeの設立発表直後に買収されました。なお、Fractional AIはそれまでOpenAIと11カ月間のパートナーシップを結んでいましたが、買収に伴いこの関係を終了しています。現在、Fractional AIの組織と人材がOdeの中核を形成しており、100人のエンジニアが在籍しています。

Odeの最高経営責任者であり、Fractional AIの共同創業者でもあるクリス・テイラー氏は、TechCrunchの独占インタビューで「うまく実行できれば、いつかこれが1兆ドル企業になることは容易に想像できる」と語りました。ただし、同氏は「急成長の過程で品質への重点を失わないことが、このビジネスの重要な課題だ」とも述べています。

なぜAI企業が実装支援事業に乗り出すのか

AI技術は日々進化し、できることが増えています。しかし、企業がこれらの技術を実際のビジネスに取り入れる方法については、まだ明確な答えが出ていません。多くの企業は「AIを使いたい」と考えていますが、「どう使えばいいのか」がわからない状態です。

AnthropicやOpenAIのようなAI開発企業は、これまで主にAIモデルそのものの性能向上に注力してきました。しかし、優れたモデルを開発しても、それを企業が効果的に使えなければ、ビジネスとしての成功は限定的です。この認識から、AI企業は「モデルを作るだけでなく、使い方も支援する」という新しい事業領域に進出し始めました。

Odeの最高技術責任者であり、Fractional AIの共同創業者でもあるエディ・シーゲル氏は「モデルの選択は重要だが、労力の大部分が費やされる場所ではない」と説明します。「それはエンジニアリングが必要なシステムの一要素に過ぎない。ソフトウェアを構築する際のプログラミング言語の選択のようなものだ。企業の変革を、PythonとJavaのどちらを選ぶかで定義することはないだろう」。つまり、AIモデル自体よりも、それをどう組み込み、どう運用するかの方が、はるかに重要だということです。

Odeが提供するサービスの具体的内容

Odeは「拡大した精鋭サービス企業」と自らを位置づけています。同社のエンジニアは、顧客企業の経営陣と密接に協力し、AI技術がビジネスのどこに影響を与えられるかを特定します。そして、各組織の業務に合わせたカスタムシステムを構築します。

テイラー氏によれば、Odeの理想的な顧客は「最高経営責任者がAIの可能性を信じている企業」です。「私たちが行っている仕事の多くは、その企業のCEOにとって最優先事項の1つか2つだ」と同氏は述べます。「それは今後2年間で会社が構築する最も重要な製品機能であったり、最も重要なビジネスプロセスの再構築だったりする」。つまり、Odeは単なる技術サポートではなく、企業の中核的な戦略に関わる仕事を担うのです。

Odeは「Claude優先」の原則で運営されます。Claudeとは、Anthropicが開発したAIアシスタントのことです。Odeは可能な限りAnthropicの技術を実装しますが、必要に応じて競合他社のAI製品も使用します。例えば、Slackというビジネスチャットツール内でClaudeを使える「Claude Tag in Slack」といった機能の導入支援も行います。

Anthropic社内の応用AI チームは、戦略的で使命に沿った展開に引き続き注力すると、同社の広報担当者はTechCrunchに語りました。一方、Odeに出資している投資会社は、自社の投資先企業をOdeの潜在顧客として紹介します。ただし、Odeのサービス販売はこれらの企業に限定されません。

Odeの「秘密の武器」とは何か

シーゲル氏は、Odeの強みは「実装の質」と「ビジネス課題に対するカスタムソリューションの構築能力」にあると説明します。多くのAI導入プロジェクトは、既存のツールをそのまま使おうとして失敗します。しかし、各企業のビジネスプロセスや顧客体験は異なるため、それぞれに合わせた設計が必要です。

テイラー氏は、Odeの根本的な信念として「AI以外の企業が、この技術を正しく採用すれば、AI時代の大きな勝者になる」と述べています。しかし、「この魔法のような、時に誤った出力をする要素」であるAIを使って、中核的なビジネスプロセスや顧客体験を再構築するには、多くの支援が必要だと同氏は指摘します。「それには最高水準の応用AI人材が必要だが、ほとんどの企業はそうした人材を持っていない」。

Odeの経営陣は、自社のチームを「エリート・ジェネラリスト・ソフトウェアエンジニア」と表現します。その半数以上は元起業家で、「非常に困難な技術的問題に取り組みながら、何かを最初から最後まで自分で所有できる」タイプの人材です。Blackstoneの幹部の言葉を借りれば、「大人の」エンジニア、つまり大量の派遣エンジニアではなく「特殊部隊」のような存在です。

実装支援ビジネスの市場規模と競争環境

Odeに関わる複数の関係者がTechCrunchに語ったところによれば、こうした派遣エンジニアチームへの需要は、供給を大きく上回っています。企業がAI技術を導入したいと考えても、それを支援できる人材が圧倒的に不足しているのです。

Odeは、この需要に応えるため、国際的にも事業を拡大しながら、精鋭企業としての位置づけを維持することを目指しています。具体的には、AI実装のビジネスへの影響を測定する評価を継続的に実施します。これにより、単に規模を拡大するだけでなく、質の高いサービスを提供し続けることができます。

しかし、この市場にはすでに強力な競合が存在します。OpenAIの「The Deployment Company」は直接的なライバルです。また、DeloitteやAccentureといった大手コンサルティング企業も、独自の派遣エンジニアチームを編成しています。これらの企業は長年の企業向けサービスの経験と、広範な顧客基盤を持っています。

さらに、優秀なエンジニア人材の確保も課題です。エリート応用AIエンジニアになるには、起業家としての経験、システム全体を考える思考力、AI技術の専門知識、企業向け製品の判断力が必要です。このような人材を十分に確保し、訓練できるのかという疑問があります。

人材確保の課題とOdeの見解

シーゲル氏は、「大人のジェネラリストエンジニア」の人材プールが枯渇することについて、それほど心配していません。「起業家になるのが、これほど簡単な時代はなかった」と同氏は述べます。「問題を最初から最後まで自分で所有し、製品と市場の適合を見つけ、ビジネスに影響を与えようとすることで、多くのことを学ぶ。狭い問題を解決するだけでは学べないことを学べる。それがOdeに非常に適したスキルセットだ」。

つまり、起業経験者やスタートアップで働いた経験のある人材は、技術的な問題解決だけでなく、ビジネス全体を理解する能力を持っています。こうした人材は、企業のCEOレベルの課題に取り組むOdeの仕事に適しているというわけです。

ただし、十分な数のこうしたエンジニアが実際に集まるかどうかは、まだ答えの出ていない問題です。Odeとその支援者たちが正しければ、次の大きなAI競争は、最高のモデルを作ることだけでなく、それらのモデルを世界最大の企業の中で実際に機能させることができる者が勝つことになります。

私たちへの影響

このニュースは、AI技術を導入しようとしている企業、そこで働く従業員、そしてAI業界でキャリアを考えている人々に、重要な影響を与えます。

企業にとっては、AI導入の選択肢が増えることを意味します。これまでは、AIモデルを購入して自社で実装するか、大手コンサルティング会社に高額な費用を払って依頼するかの二択でした。Odeのような専門企業の登場により、より実践的で効果的な導入支援を受けられる可能性が高まります。特に、CEOレベルの戦略的課題にAIを活用したい企業にとって、有力な選択肢となるでしょう。

従業員にとっては、職場にAI技術が導入される速度が加速する可能性があります。Odeのような企業が実装を支援することで、これまで「AIを使いたいが方法がわからない」という状態だった企業が、実際に導入を進められるようになるためです。これは、業務の効率化や新しいスキルの習得機会をもたらす一方で、仕事の内容が変化することへの適応も求められます。

AI業界でキャリアを考えている人にとっては、新しい職業の道が開かれたことを意味します。これまでAI分野のキャリアといえば、モデルの研究開発が中心でした。しかし、Odeのような企業の成長により、「AIを企業に実装する専門家」という新しい職種の需要が高まっています。起業経験やビジネス理解を持つエンジニアにとって、魅力的なキャリアパスとなる可能性があります。

ただし、この動きが本当に1兆ドル市場になるかどうかは、まだ不確実です。人材確保の課題、競合との競争、そして企業のAI導入が実際にどれだけ進むかによって、結果は大きく変わるでしょう。今後数年間の動向を注視する必要があります。

よくある質問

Q1. Odeは日本企業にもサービスを提供する予定ですか?

A1. 記事では国際展開を目指すと述べられていますが、具体的な地域や時期は明らかにされていません。ただし、Blackstoneなどの投資会社は日本にも投資先企業を持っているため、将来的に日本市場への展開も考えられます。

Q2. OdeとOpenAIのThe Deployment Companyの違いは何ですか?

A2. 両社とも企業へのAI実装支援を行いますが、Odeは複数の投資会社との合弁事業で、Anthropicの技術を中心に使用します。一方、The Deployment CompanyはOpenAIの独自事業です。また、Odeは「精鋭チーム」を重視し、元起業家など経験豊富なエンジニアを中心に構成している点が特徴です。

Q3. なぜAIモデルの性能向上だけでは不十分なのですか?

A3. AIモデルがいくら優れていても、それを企業の実際のビジネスプロセスに組み込むには、高度な専門知識と経験が必要だからです。各企業の業務は異なるため、カスタマイズされた実装が求められます。多くの企業はそうした人材を社内に持っていないため、外部の専門家による支援が不可欠になっています。

出典:Anthropic, Blackstone bet the next trillion-dollar AI business is implementation, not just models(techcrunch.com)

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