中国製AIが米国モデル並みの性能で3分の1の価格になっても、社内で使われるかどうかは別の話です

2026年9月3日、ITmedia ビジネスオンラインに、中国製AIの実力と安全性を扱った記事が掲載されました。取り上げられているのは、中国企業のMoonshot AIが7月に発表した「Kimi K3」です。米国のフロンティアモデルに匹敵する性能ではないかと注目され、「K3ショック」とも呼ばれています。

記事によると、Kimi K3はパラメータ数が2.8兆のオープンウェイトモデルで、1回の会話で100万トークンを扱えます。注目を集めた最大の理由は料金です。API利用料は入力100万トークンあたり3ドル、出力100万トークンあたり15ドル。比較対象のモデルは入力10ドル、出力50ドルなので、およそ3分の1になります。

一方で記事はリスクにも触れています。APIやサブスクリプションで使う場合、入力したデータはMoonshot AIのデータセンターに送られて処理されます。「学習に使用しない」というオプションはあるものの、データそのものが送信されること自体は変わりません。記事は、利用者自身がリスクを理解し、制御できる範囲で使っていくことが重要だと結んでいます。

出典:「中国製AI」が急速進化 米モデル級の性能、API料金は約3分の1 企業が導入するリスクは?(itmedia.co.jp)

選べるAIが増えて、値段も下がりました。それで社内の何が変わるでしょうか

これは要するに、社内にAIを入れる話が通りやすくなった、ということです。性能が同等で費用が3分の1なら、稟議は以前より通ります。導入の判断そのものは、確実に軽くなりました。

ただ、契約したあとに社内で何が起きるかは、値段とも性能とも関係がありません。使われるかどうかを決めているのは、渡し方のほうです。私はそこで一度、はっきり失敗しています。

配った日は「すごい」と言われました。ログを見たら、誰も使っていませんでした

安いモデルが出たという今回の話と、私の失敗は、同じところでつながっています。どちらも、入れたあとに誰がどう使うかを決めていない、という点です。

販促の文章を作る部署に、AIが初めて導入されたときのことです。私は、その部署の業務で使えるツールを一つ用意して配りました。AIからの質問に順番に答えていくと、文章の案が出来上がる仕組みです。

配った日の反応は良いものでした。「すごい」と言われ、その場は歓迎されました。ところが後からログを確認すると、メンバーのほとんどが使っていません。使った人も、数回でやめていました。

使い勝手が原因だろうと考えて、現場のリーダーに話を聞き、「この機能が欲しい」と言われた内容を盛り込んだ版を作り直しました。それも使われずに終わりました。要望どおりに作り直しても、届きませんでした。

原因は、ツールの出来ではありませんでした。ツールの水準と、その人たちが日々やっている仕事の目的が、噛み合っていなかったのです。噛み合っていないものは、要望どおりに作っても使われません。使わせることに執着しても、動きませんでした。

やり方を変えました。全員に配るのをやめて、一人の隣に座りました。その人が日々やっている業務の中で、どこから使い始めるかを話しながら、実際に使ってもらいました。

理解が進んだようで、2週間ほどでその人のAIにはその人の仕事の前提が溜まり、実務で使えるものになっていきました。

そこから先は、私は手を引きました。使わせようとするのをやめて、すでに自分で使っている人に、他のメンバーへ話してもらう機会を作りました。上から一斉に広げるのではなく、下から、やりたい人が自分で始める形にしました。いまでは各自が作った指示や手順の型を互いに共有し合い、共通のダッシュボードも実際に使われています。

ここで効いたのは、ツールの性能ではありません。一人の仕事の中に一緒に入り、そこで前提を溜めた2週間です。今回のニュースのように利用料が大きく下がっても、この2週間は短くなりません。

配ることは、渡したことになりません

なぜ配布では動かず、隣に座ると動いたのか。AIが実務で使えるようになるのは、その人の仕事の前提が入ったときだからです。

前提というのは、何のための作業なのか、誰に向けたものなのか、過去に何を却下したのか、といったことです。これは本人の頭の中にあります。書き出されてはいません。だから、本人が自分の言葉で入力しない限り、AIには入りません。配った側がどれだけ丁寧に作り込んでも、この部分だけは代わりに入れられません。

配布という渡し方は、ここを本人任せにします。道具は受け取ったものの、何を入れれば動くのかを教わっていない状態です。最初の数回で手応えが無ければ、そこでやめます。作り直した版が使われなかったのも同じで、機能を足しても、前提を入れる工程は本人の側に残ったままでした。

隣に座ると、この工程が実際の仕事の中で起きます。目の前の仕事を材料にするので、前提が自然に言葉になります。2週間かかったのは、溜めるのに時間がいるからです。

今回のニュースに戻すと、100万トークンを扱えるというのは器が大きいという話であって、中身が入っていることは意味しません。渡す前提が無ければ、器は空のままです。性能の差より、渡した前提の差のほうが実務では先に効きます。

最初の一人を決めて、その人の仕事から始めます

全員に配るのをやめます。これが最初にやることです。代わりに、最初の一人を決めます。

次に、その人が毎週必ずやっている仕事を1つ選びます。年に数回の仕事では前提が溜まりません。毎週やるものを選んでください。

そのうえで、隣に座ります。画面共有でも構いません。その仕事を、その場で一緒にやります。出てきたものが使えなければ、指示の出し方を変えて、その場でやり直します。ここを持ち帰らせないことが大事です。持ち帰った時点で、前提を入れる工程が本人任せに戻ります。

これを2週間続けます。途中で成果を聞かないでください。溜まるまでは、目に見える成果は出ません。

使えるようになったら、その人に他のメンバーへ話してもらいます。こちらから広げようとしないことです。話す側が自分の言葉で説明できる状態になっていれば、聞いた人は自分で始めます。

誰を最初の一人にするかは、会社によって変わります

ここまでは、私がやってうまくいった手順です。ただ、この広げ方がそのまま通用するとは限りません。誰を最初の一人にするか、その人のどの仕事から始めるか、そこからどう横に渡すかは、会社の状況、メンバーの構成、職種によって全部変わります。

最初の一人に選ぶべきなのが、いちばん忙しい人なのか、いちばん興味を持っている人なのか、周りからいちばん見られている人なのかは、その会社の空気で変わります。選び方を間違えると、横に渡りません。ここに一般解はないので、御社ならどう進めるのが良いかを、一緒に考えるところになります。

私自身は、いまも事業会社で部門を統括する立場にあり、1on1の設計と面談の型づくりを自分で行っています。人が何かを自分で始めるまでに何が要るかは、机の上ではなく、その場で見てきました。UNICUSでお手伝いするのも、この部分です。

誰から始めるかを、30分で決めます

最初の一人を誰にして、その人のどの仕事から始めるか。この2つを一緒に決める30分をご用意しています。いま社内で誰がどんな仕事を毎週やっているかを教えてください。その場で提案や見積もりは出しません。決まったことを持ち帰って、明日から試せる形にして終わります。

お問合せは簡単です。以下の問い合わせフォームに、お名前などの必要事項と御社のURLと社員数と現在お困りの事象について、できるだけ具体的にお書きください。その上で、希望の日時を3つほど書いてお送りください。後ほど、こちらからメールにて返信をさせていただきます。

ただし、対応しているのは私一人です。そのため、新規でご相談をお受けするのは月に2名までとさせていただいております。思いついたときに、すぐお問合せされることをお勧めします。

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