米財務長官と連邦準備制度理事会議長が、大手銀行にAnthropic社の新AIモデル「Mythos」の試験利用を推奨。国防総省がAnthropic社をサプライチェーンリスクと指定した直後の動きで波紋。金融セキュリティへの影響が注目される。
米政府高官が大手銀行にAnthropic社AIモデル試験利用を推奨、国防総省のリスク指定直後で波紋
2026年4月12日、米国のスコット・ベッセント財務長官とジェローム・パウエル連邦準備制度理事会議長が、今週大手銀行の幹部を招集し、Anthropic社の新しいAIモデル「Mythos」を使ってセキュリティの脆弱性を検出するよう推奨したことが、Bloomberg通信の報道で明らかになりました。Mythosとは、Anthropic社が今週発表したばかりの人工知能モデルで、サイバーセキュリティ専門の訓練を受けていないにもかかわらず、システムの弱点を見つける能力が極めて高いとされています。JPモルガン・チェースが初期パートナーとして公表されていましたが、ゴールドマン・サックス、シティグループ、バンク・オブ・アメリカ、モルガン・スタンレーなども試験的に利用していると報じられています。この動きは、国防総省が最近Anthropic社をサプライチェーンリスクと指定したばかりであることから、特に注目を集めています。政府内で相反する評価が示される中、金融機関のセキュリティ対策と国家安全保障のバランスが問われる事態となっています。
政府高官による異例の推奨
米国の財務長官と連邦準備制度理事会議長という金融政策の最高責任者が、特定企業のAIモデルを大手銀行に推奨するのは極めて異例です。今週開催された会議では、Mythosモデルを使って金融システムの脆弱性を検出することが奨励されました。連邦準備制度理事会とは、米国の中央銀行制度を統括する組織で、金融政策や銀行監督を担当しています。
報道によれば、JPモルガン・チェースだけでなく、ゴールドマン・サックス、シティグループ、バンク・オブ・アメリカ、モルガン・スタンレーといった米国を代表する大手金融機関がMythosの試験を行っているとされます。これらの銀行は、米国の金融システムの中核を担う存在であり、その合計資産は数兆ドルに達します。
Mythosモデルの特徴と制限
Anthropic社は今週、Mythosモデルを発表しましたが、現時点ではアクセスを制限しています。その理由は、このモデルがサイバーセキュリティ専門の訓練を受けていないにもかかわらず、セキュリティの脆弱性を見つける能力が予想以上に高いためです。脆弱性とは、システムやソフトウェアの弱点のことで、悪意ある攻撃者に悪用される可能性があります。
Anthropic社は、この能力の高さを理由にアクセス制限の必要性を主張していますが、一部の専門家からは、これは誇大宣伝であるとか、企業向け販売戦略の一環ではないかという指摘も出ています。実際、高度な能力を持つAIモデルへのアクセスを制限することで、希少性を演出し、より高い価格設定を正当化できる可能性があります。
国防総省との対立という背景
今回の推奨が特に注目される理由は、Anthropic社が現在、トランプ政権と法廷で争っている最中だからです。国防総省は最近、Anthropic社をサプライチェーンリスクと指定しました。サプライチェーンリスクとは、製品やサービスの供給過程において、安全保障上の脅威となる可能性があることを意味します。
この指定は、Anthropic社が自社のAIモデルの政府による使用方法を制限しようとしたことで、交渉が決裂した後に行われました。つまり、Anthropic社は自社の技術が軍事目的などで無制限に使われることに懸念を示し、使用条件を設けようとしたのです。しかし、政府側はこれを受け入れず、代わりに同社をリスクと指定する措置を取りました。
このような状況下で、財務省と連邦準備制度理事会がAnthropic社の製品を推奨することは、政府内部での評価が一致していないことを示しています。国防総省が安全保障上のリスクと見なす企業の製品を、金融当局が推奨するという矛盾した状況が生じているのです。
国際的な懸念の広がり
Financial Times紙の報道によれば、英国の金融規制当局もMythosがもたらすリスクについて議論しています。これは、Mythosの能力が国際的にも注目され、同時に懸念も広がっていることを示しています。
英国の規制当局が懸念するのは、Mythosが脆弱性を発見する能力が高すぎることです。この技術が悪意ある者の手に渡れば、金融システムへの攻撃に利用される可能性があります。一方で、正当な防御目的で使用すれば、セキュリティを大幅に向上させることもできます。この両面性が、規制当局を悩ませているのです。
できること・できないこと
Mythosモデルにより、金融機関は自社のシステムに潜む脆弱性を効率的に発見できるようになります。例えば、従来は専門家が何週間もかけて調査していたセキュリティ上の弱点を、AIが短時間で特定できる可能性があります。また、人間が見落としがちな複雑な脆弱性や、複数のシステムにまたがる問題も発見できるかもしれません。
一方で、このモデルにも限界があります。発見した脆弱性をどう修正するかは、依然として人間の専門家の判断が必要です。また、Anthropic社がアクセスを制限しているため、すべての金融機関が利用できるわけではありません。さらに、このモデルが発見した脆弱性の情報が漏洩すれば、かえってセキュリティリスクが高まる可能性もあります。今後数ヶ月で、実際の運用を通じて、これらの課題がどう解決されるかが明らかになるでしょう。
私たちへの影響
このニュースは、銀行を利用するすべての人に影響を与える可能性があります。大手銀行がより高度なセキュリティ技術を導入することで、私たちの預金や個人情報がより安全に守られることが期待できます。
短期的には、これらの銀行がMythosを使ってシステムの弱点を発見し、修正することで、サイバー攻撃による被害を未然に防げる可能性が高まります。これは、オンラインバンキングやモバイル決済を日常的に使う私たちにとって、直接的なメリットとなります。中長期的には、AI技術を活用したセキュリティ対策が金融業界全体に広がり、より安全な金融サービスが提供されるようになるでしょう。
ただし、注意すべき点もあります。政府内部でAnthropic社への評価が分かれていることは、この技術の安全性や信頼性について、まだ確立された見解がないことを意味します。また、高度なAI技術が金融システムに深く組み込まれることで、新たなリスクが生じる可能性も否定できません。今後の展開を注視する必要があるでしょう。
