Anthropic、Block、OpenAIなど大手IT企業がLinux Foundationと協力し、AI開発の標準化を目指す新団体を設立。Model Context Protocol(MCP)など3つの技術を管理。AI開発の相互運用性向上が期待される。
大手IT企業がLinux Foundationと連携、AI開発の標準化を目指す新団体を設立
2025年12月、Anthropic、Block、OpenAIなどの大手IT企業が、Linux Foundationの下に「Agentic AI Foundation(AAIF)」という新しい組織を設立しました。この組織は、AI開発における重要な技術の標準化を推進することを目的としています。具体的には、Model Context Protocol(MCP)、goose、AGENTS.mdという3つの技術を管理し、開発を進めていきます。これらの技術は、AI開発者がより効率的にシステムを構築できるようにするためのツールです。この動きは、AI業界全体が急速に発展する中で、各社がバラバラに開発を進めるのではなく、共通の基盤を作ろうとする試みです。Amazon、Google、Cloudflare、Microsoftなども支援を表明しており、AI開発の未来に大きな影響を与える可能性があります。
Agentic AI Foundationの設立と目的
Agentic AI Foundation(AAIF)は、非営利団体であるLinux Foundationの一部として設立されました。Linux Foundationは、これまでにもKubernetesなどの重要な技術の標準化を支援してきた実績があります。AAIFの主な目的は、AI開発における相互運用性を高めることです。相互運用性とは、異なる企業やシステムが作ったツールが、互いにスムーズに連携できることを意味します。現在、AI業界では各社が独自の方法で開発を進めており、それぞれのシステムを連携させるには多くの手間がかかります。AAIFは、この問題を解決するために、共通の標準を作ろうとしています。
管理される3つの主要技術
AAIFが管理する最も重要な技術は、Model Context Protocol(MCP)です。MCPは、2024年にAnthropicによってオープンソース化されました。この技術は、AIエージェントとデータソースを標準的な方法で接続するためのものです。Anthropicは、MCPを「AIのためのUSB-Cポート」と表現しています。USB-Cケーブルがさまざまな機器に接続できるように、MCPを使えば、AIシステムは異なるデータベースやクラウドストレージに簡単に接続できます。従来は、それぞれのデータソースに対して個別の接続方法を開発する必要がありましたが、MCPを使えばその手間が大幅に削減されます。
2つ目の技術は、gooseです。これは、決済サービス企業Squareの親会社であるBlockが開発したツールで、2025年初頭に公開されました。gooseは、プログラミング作業を支援するAIエージェントです。開発者のコンピュータ上でもクラウド上でも動作し、どのようなAIモデルでも使用できる柔軟性があります。また、gooseはMCPにも対応しており、さまざまなデータソースと連携できます。
3つ目は、OpenAIが提供するAGENTS.mdです。これは2025年8月に発表された新しいツールで、マークダウン形式でAIエージェントの動作を説明するための仕組みです。マークダウンとは、シンプルな記号を使って文書を書く方法のことです。AGENTS.mdを使うことで、開発者はAIエージェントがどのように動作すべきかを明確に指示でき、より予測可能な動作を実現できます。
業界全体での急速な採用
MCPは公開から1年で、AI業界全体に広く採用されました。Googleは2025年のI/Oカンファレンスで、開発ツールにMCPのサポートを追加すると発表しました。その後、Googleの多くの製品がMCPサーバーを追加し、AIエージェントがデータにアクセスしやすくなりました。OpenAIも、MCPが公開されてわずか数か月後に採用を決定しています。このような急速な普及は、業界がこの技術の価値を認めている証拠です。
MCPの採用は、大手企業だけにとどまりません。例えば、新しいスマートリングデバイス「Pebble Index 01」は、ローカルで動作するAIモデルを搭載しており、MCPをサポートしています。ローカルで動作するAIモデルとは、クラウドではなくデバイス自体で処理を行うAIのことです。これらのモデルは、クラウドベースの大規模なモデルに比べて機能が限られることがありますが、MCPを使うことでその制限を補うことができます。Qualcommのバイネシュ・スクマール氏は、「生産性やコンテンツに関する多くのタスクは、デバイス上で完全に実行可能です。MCPを使えば、複雑なタスクを完了するために複数のクラウドサービスプロバイダーと連携できます」と述べています。
標準化への動きの背景
この標準化への動きは、AI業界が直面している課題を反映しています。過去1年間で、テクノロジー企業を取り巻く環境は大きく変化しました。各社は、あらゆる製品やプロセスに生成AIを組み込もうと競争しています。しかし、誰が正しい方向に進んでいるのか、誰にもわかりません。もしかすると、誰も正しい方向に進んでいない可能性もあります。
このような不確実な状況の中で、大手テクノロジー企業は標準化を選択したようです。最も広くサポートされているMCPでさえ、OAuth(認証の仕組み)のような基本的な技術の扱い方には、まだかなりの変動があります。Linux Foundationは、これまでにも重要な技術の中立的で相互運用可能な開発を支援するために、多くのプロジェクトを立ち上げてきました。例えば、2015年にはGoogleのオープンソースクラスター管理ツールKubernetesを支援するために、Cloud Native Computing Foundation(CNCF)を設立しました。このプロジェクトは、その後数十のクラウドコンピューティングツールを統合しています。
できること・できないこと
AAIFの設立により、AI開発者はより効率的にシステムを構築できるようになります。例えば、MCPを使えば、異なるデータソースへの接続を簡単に実装できます。これまでは、Google DriveやDropbox、社内データベースなど、それぞれに対して個別の接続コードを書く必要がありましたが、MCPを使えば統一された方法で接続できます。また、gooseを使えば、プログラミング作業を支援するAIエージェントを自分の好みに合わせてカスタマイズできます。AGENTS.mdを使えば、AIエージェントの動作をより明確に定義し、予期しない動作を減らすことができます。
一方で、これらの技術はまだ発展途上です。MCPは公開から1年しか経っておらず、認証などの基本的な機能の実装方法にはまだ統一性がありません。gooseとAGENTS.mdはさらに新しく、2025年に公開されたばかりです。これらの技術が長期的に重要な役割を果たすかどうかは、まだ不明です。Linux Foundationは、これらの技術を「オープンさ」の名の下に前進させると述べていますが、このペースで進めば、多くの初期段階のAIツールを集めることになるかもしれません。また、これらの標準が実際に業界全体で採用されるかどうかも、今後の動向次第です。
私たちへの影響
このニュースは、AI技術を使う開発者や企業、そして最終的にはAIサービスを利用する一般ユーザーにも影響を与えます。開発者にとっては、標準化されたツールを使うことで、開発時間を短縮し、より複雑なAIシステムを構築できるようになります。企業にとっては、異なるベンダーのAIツールを組み合わせやすくなり、ベンダーロックイン(特定の企業の製品に依存してしまうこと)のリスクが減ります。
短期的な影響としては、MCPをサポートする製品やサービスが増えることが予想されます。すでにGoogle、OpenAI、Anthropicなどの主要企業が採用を表明しており、今後数か月から1年の間に、多くのAI製品がこれらの標準をサポートするようになるでしょう。中長期的には、AI開発のエコシステム全体がより統一され、開発者が異なるツールやサービスを組み合わせやすくなることが期待されます。これにより、より高度で便利なAIアプリケーションが登場する可能性があります。
ただし、注意すべき点もあります。これらの技術はまだ新しく、実証されていない部分も多くあります。標準化が進むことで、特定の技術やアプローチが固定化され、より良い代替案が出てきても採用されにくくなる可能性もあります。また、大手企業が主導する標準化は、小規模な企業やスタートアップにとって参入障壁となる可能性もあります。AI技術は急速に進化しているため、今日の標準が明日も有効であるとは限りません。
