アマゾンが2025年12月、企業や政府の自社データセンターに設置できるAIシステム「AI Factories」を発表。NvidiaとAWSの技術を組み合わせ、データ主権を重視する組織向けに提供。クラウド大手が再び企業内設置型システムに注力する動きが加速。
アマゾン、企業内設置型AIシステム「AI Factories」を発表―Nvidiaと協業
アマゾンは2025年12月2日、大企業や政府機関が自社のデータセンター内で運用できるAIシステム「AI Factories」を発表しました。このシステムは、顧客が電力とデータセンターを用意し、アマゾンのクラウドサービス部門であるAWSがAIシステムを設置・管理する仕組みです。必要に応じて他のAWSクラウドサービスとも連携できます。この製品は、半導体大手のNvidiaとの協業によって実現しました。NvidiaのGPUチップやネットワーク技術と、AWSの独自技術を組み合わせています。データ主権とは、自国や自社のデータを完全に管理し、競合他社や外国の手に渡らないようにする考え方のことです。企業内にAIシステムを設置することで、データをモデル提供企業に送る必要がなくなり、ハードウェアも共有せずに済みます。クラウドサービスが主流となった現在、大手プロバイダーが再び企業内設置型システムに力を入れる動きは、AI時代における新たな転換点を示しています。
AI Factoriesの仕組みと提供内容
AWS AI Factoriesは、顧客の施設内に設置される包括的なAIシステムです。システムには、NvidiaとAWSの両社の技術が統合されています。顧客は、Nvidiaの最新GPU「Blackwell」か、アマゾンが独自開発した新型チップ「Trainium3」のどちらかを選択できます。GPUとは、画像処理用の半導体チップのことで、AI計算にも適しているため広く使われています。
システムには、AWSが自社開発したネットワーク、ストレージ、データベース、セキュリティ技術が組み込まれています。さらに、Amazon Bedrockというサービスにも接続できます。これは、複数のAIモデルから選択して管理できるツールです。また、AWS SageMaker AIという、AIモデルを構築・訓練するためのツールも利用可能です。顧客は、クラウドの利便性を保ちながら、データを自社内に保持できるという利点があります。
背景と経緯―データ主権への関心の高まり
この製品が登場した背景には、データ主権に対する企業や政府の関心の高まりがあります。特に大企業や政府機関は、機密性の高いデータを外部のクラウドサービスに預けることに慎重です。競合他社にデータが渡る可能性や、外国政府による情報アクセスのリスクを懸念しています。
実は「AI Factory」という名称は、もともとNvidiaが使っていたものです。NvidiaのAI Factoryは、GPUチップからネットワーク技術まで、AI運用に必要なツールを詰め込んだハードウェアシステムを指します。今回のAWS製品は、このNvidiaの概念をベースに、両社が協力して開発したものです。
興味深いことに、AWSだけがこの分野に参入しているわけではありません。2025年10月、マイクロソフトは世界中のデータセンターにNvidiaのAI Factoriesを導入し始めたと発表しました。これはOpenAIのワークロードを実行するためのものです。マイクロソフトは、ウィスコンシン州とジョージア州に最先端のデータセンター「AI Superfactories」を建設中です。さらに11月には、データ主権の問題に対応するため、各国内にデータセンターとクラウドサービスを構築する計画も明らかにしました。
クラウドから企業内設置への回帰
2000年代後半から2010年代にかけて、IT業界は企業内のサーバーからクラウドサービスへと大きく移行しました。データやアプリケーションを自社で管理するのではなく、アマゾン、マイクロソフト、グーグルなどのクラウド事業者に任せる流れが主流になったのです。コスト削減や運用の簡素化が主な理由でした。
しかし、AIの登場により状況が変わりつつあります。大手クラウドプロバイダーが、企業の自社データセンター向けの製品に再び多額の投資を行っています。これは、2009年頃に盛んだった「ハイブリッドクラウド」の考え方に似ています。ハイブリッドクラウドとは、企業内のシステムとクラウドサービスを組み合わせて使う方式のことです。
この動きは、ある意味で皮肉な展開です。クラウド事業者は長年、企業に「すべてをクラウドに移行しましょう」と提案してきました。しかし今、AIという新技術のために、再び企業内設置型のシステムを推進しているのです。これは、技術の進化が必ずしも一方向ではないことを示しています。
できること・できないこと
AI Factoriesにより、大企業や政府機関は自社のデータセンター内で高度なAIシステムを運用できるようになります。例えば、機密性の高い顧客データを使った分析や、国家安全保障に関わる情報処理などが考えられます。データを外部に送信せずに、最新のAI技術を活用できる点が最大の利点です。また、AWSの管理サービスを利用できるため、専門的な技術者を大量に雇う必要もありません。
一方で、このシステムには制約もあります。まず、自社でデータセンターと電力を用意する必要があるため、初期投資が大きくなります。小規模な企業には現実的ではありません。また、完全にクラウドから独立しているわけではなく、一部のサービスはAWSのクラウドに接続する必要があります。さらに、システムの物理的な保守や、施設の管理は顧客側の責任です。今後、より小規模な組織向けの選択肢や、完全オフライン運用が可能なバージョンが登場する可能性はありますが、現時点では大規模組織向けの製品と言えるでしょう。
私たちへの影響
このニュースは、大企業で働く技術者やIT部門の担当者、そして政府機関の関係者に直接的な影響を与えます。データ主権やセキュリティを重視する組織にとって、新たな選択肢が増えたことになります。
短期的な影響については、AI導入を検討している大企業が、クラウドか企業内設置かの選択を再評価する動きが出るでしょう。特に金融機関、医療機関、防衛関連企業などは、この製品に強い関心を示すと予想されます。また、IT業界では、企業内設置型システムの専門家の需要が再び高まる可能性があります。
中長期的な影響としては、クラウドサービスの在り方そのものが変化していくことが考えられます。完全なクラウド化ではなく、用途に応じてクラウドと企業内システムを使い分ける「ハイブリッド」な環境が標準になるかもしれません。これは、2010年代のクラウド一辺倒の流れとは異なる、より柔軟なIT戦略の時代を意味します。
ただし、一般消費者への直接的な影響は限定的です。このシステムは大規模組織向けであり、個人や中小企業が利用するものではありません。しかし、間接的には、利用している銀行や病院などがこのシステムを導入することで、より安全にデータが管理される可能性があります。また、AI技術の選択肢が増えることで、長期的には競争が促進され、より良いサービスが生まれることも期待できます。
