エヌビディア、オープンソースAIモデル「Nemotron 3」を公開―チップメーカーからモデル開発企業へ転換

エヌビディアが2025年、高性能なオープンソースAIモデル「Nemotron 3」を公開。訓練データや開発ツールも提供し、本格的なAIモデル開発企業へ。中国企業のオープンモデル台頭と自社チップ離れへの対抗策か。

エヌビディア、オープンソースAIモデル「Nemotron 3」を公開―チップメーカーからモデル開発企業へ転換

エヌビディアは2025年、高性能なオープンソースAIモデル「Nemotron 3」シリーズを公開しました。オープンソースとは、誰でも無料で使用・改変できるソフトウェアのことです。同社はこれまでAI開発に必要な半導体チップの供給で大きな利益を上げてきましたが、今回の発表でAIモデルそのものを開発する企業としての立場を強めました。

この動きの背景には、OpenAIやGoogleといったAI企業が独自のチップ開発を進めている状況があります。これらの企業がエヌビディアのチップから離れていく可能性に備えた戦略と見られています。また、中国企業が公開する高性能なオープンモデルが世界的に人気を集めており、アメリカ企業としての競争力を示す狙いもあります。

エヌビディアのジェンスン・ファンCEOは「オープンなイノベーションがAI進歩の基盤だ」と述べ、開発者に透明性と効率性を提供する姿勢を強調しました。この発表は、AI業界の勢力図を変える可能性を秘めています。

Nemotron 3の特徴と3つのモデルサイズ

Nemotron 3は、3つの異なるサイズで提供されます。最小の「Nano」は300億パラメータ、中間の「Super」は1000億パラメータ、最大の「Ultra」は5000億パラメータです。パラメータとは、AIモデルの能力を示す指標のことです。数値が大きいほど高性能ですが、動作に必要な計算資源も増えます。

エヌビディアが公開したベンチマークスコアによれば、Nemotron 3は現在ダウンロード可能なオープンモデルの中で最高水準の性能を持ちます。ユーザーは自分のハードウェアでこれらのモデルを実行し、自由に改変できます。

特筆すべきは、エヌビディアがモデルの訓練に使用したデータも公開している点です。多くのアメリカ企業は訓練データを非公開にしていますが、完全な透明性を提供することで、開発者がモデルをより簡単にカスタマイズできるようにしています。また、AIエージェント構築に適した新しいハイブリッド潜在混合専門家モデルアーキテクチャも提供されます。AIエージェントとは、コンピュータやウェブ上で自律的に行動できるAIシステムのことです。

背景と経緯―オープンモデル市場の変化

オープンソースAIモデルは、2023年2月にメタ社が「Llama」を公開して以来、AI開発の重要な基盤となってきました。研究者やスタートアップ企業の多くが、実験やプロトタイプ作成にオープンモデルを活用しています。

しかし、過去1年間でアメリカ企業の姿勢に変化が見られます。競争が激化する中、OpenAIやGoogleは研究内容を秘密にし、オープンモデルの更新頻度を下げています。メタ社も将来のリリースをオープンソースにしない可能性を示唆しています。

一方、中国企業は積極的にオープンモデルを公開しています。DeepSeek、アリババ、Moonshot AI、Z.ai、MiniMaxなどが定期的に高性能モデルを発表し、研究の詳細も公開しています。オープンソースプロジェクトのホスティングプラットフォームであるHugging Faceのデータによれば、現在は中国企業のオープンモデルがはるかに人気が高い状況です。

技術的な詳細と開発ツール

Nemotron 3には、モデルのカスタマイズと微調整を支援する包括的なツールセットが付属します。これには強化学習を使ってAIエージェントを訓練するためのライブラリも含まれます。強化学習とは、AIに模擬的な報酬と罰を与えることで学習させる手法のことです。ゲームのキャラクターが試行錯誤しながら上達していく様子を想像すると分かりやすいでしょう。

エヌビディアの企業向け生成AIソフトウェア担当副社長であるカリ・アン・ブリスキ氏は、オープンモデルが重要な理由を3つ挙げています。第一に、開発者は特定のタスクに合わせてモデルをカスタマイズする必要が増えています。第二に、異なるモデルに問い合わせを振り分けることが有効な場合があります。第三に、訓練後にモデルに模擬的な推論を実行させることで、より知的な応答を引き出しやすくなります。

新しいハイブリッド潜在混合専門家モデルアーキテクチャは、複数の専門化されたサブモデルを組み合わせる技術です。これにより、特定のタスクに対して効率的に高性能を発揮できます。特にAIエージェントの構築において優れた性能を示すとエヌビディアは説明しています。

できること・できないこと

Nemotron 3により、開発者は高性能なAIシステムを自社のハードウェア上で構築できるようになります。例えば、顧客サービスを自動化するチャットボット、複雑なデータ分析を行うビジネスツール、ウェブ上で情報を収集して行動するAIエージェントといった用途が考えられます。訓練データが公開されているため、特定の業界や用途に合わせた細かい調整も可能です。

一方で、最大サイズのUltraモデルは5000億パラメータと非常に大規模なため、実行には高価なハードウェアが必要です。個人の開発者や小規模企業が気軽に使えるものではありません。また、オープンソースであるがゆえに、悪意ある利用を完全に防ぐことは困難です。エヌビディアは責任あるAI利用のためのガイドラインを提供していますが、最終的な使用方法は利用者に委ねられます。

私たちへの影響―AI業界の勢力図の変化

このニュースは、AI開発に携わる企業や研究者に大きな影響を与えます。これまで中国企業のオープンモデルに依存していた開発者にとって、アメリカ企業による高性能な選択肢が増えることは歓迎すべき変化です。特に、データの透明性を重視する企業や、アメリカ製の技術を優先したい組織にとって魅力的な選択肢となるでしょう。

短期的には、オープンソースAI開発のエコシステムが活性化すると予想されます。より多くの開発者がNemotron 3を使って実験を行い、新しいアプリケーションが生まれる可能性があります。OpenRouterのレポートによれば、2025年にオープンモデルは全トークン処理の約3分の1を占めており、この割合はさらに増加するかもしれません。

中長期的には、AI業界の競争構造が変化する可能性があります。エヌビディアがチップ供給だけでなくモデル開発でも主要プレイヤーとなれば、OpenAIやGoogleといった既存のAI企業との関係性が複雑になります。また、中国政府が国産チップの使用を推進している状況では、中国市場でのエヌビディアの立場が弱まる懸念もあります。トランプ政権が最近、エヌビディアのH200チップの中国輸出を許可しましたが、地政学的な要因がAI技術の発展に影響を与え続けるでしょう。

ただし、オープンソースモデルの普及は、AI技術の民主化という観点では前向きな動きです。より多くの人々が高度なAI技術にアクセスできるようになることで、イノベーションが加速する可能性があります。一方で、技術の悪用リスクも高まるため、適切な規制と倫理的なガイドラインの整備が今後ますます重要になるでしょう。

出典:Nvidia Becomes a Major Model Maker With Nemotron 3(www.wired.com)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です