マスク氏、OpenAIに19兆円請求も「計算はでっち上げ」と反論される

イーロン・マスク氏がOpenAIとマイクロソフトに対し、最大1340億ドル(約19兆円)の損害賠償を求める訴訟を起こしました。OpenAI側は、マスク氏の専門家による計算が「でっち上げ」だと反論しています。4月の裁判で決着がつく見通しです。

マスク氏、OpenAIに19兆円請求も「計算はでっち上げ」と反論される

2026年1月、イーロン・マスク氏は、自身が初期に投資したOpenAIとその最大出資者であるマイクロソフトに対し、790億ドルから1340億ドル(約11兆円から19兆円)の損害賠償を求める訴訟を起こしました。マスク氏は、OpenAIが非営利団体としての使命を放棄し、初期投資家である自分を「愚か者にした」と主張しています。この訴訟でマスク氏は、経済学の専門家C・ポール・ワザン氏を雇い、自身の初期貢献がOpenAIの現在価値の50〜75パーセントを生み出したと算出させました。しかし、OpenAIとマイクロソフトは即座に反論し、ワザン氏の計算は「でっち上げ」であり、マスク氏を満足させるためだけに「作り出された」ものだと主張しています。この訴訟は4月に裁判が始まる予定で、AI業界における巨額の損害賠償請求として注目を集めています。

マスク氏が求める巨額の損害賠償

マスク氏は1月10日、訴訟で求める救済措置に関する通知を提出しました。この通知により、OpenAIとマイクロソフトに対して790億ドルから1340億ドルという巨額の損害賠償を求めていることが正式に確認されました。この金額は、日本円に換算すると約11兆円から19兆円に相当します。

マスク氏は、この損害額を算出するために、これまで一度も雇ったことのない専門家、C・ポール・ワザン氏を起用しました。ワザン氏は、マスク氏が2018年にOpenAIを去る前の貢献が、現在の非営利団体の価値の50〜75パーセントを生み出したと結論づけました。この結論は、4つの要素を分析した結果だとされています。具体的には、マスク氏の総財政貢献額、2017年にマスク氏が提案したOpenAIでの株式保有率、マスク氏が現在保有するxAI(マスク氏のAI企業)での株式保有率、そしてマスク氏の非金銭的貢献(時間の投資や評判の貸与など)です。

この損害賠償請求額は、OpenAIとマイクロソフトに衝撃を与えました。両社は、敗訴した場合、懲罰的損害賠償も加わる可能性があります。

OpenAIとマイクロソフトの反論

OpenAIとマイクロソフトは、ワザン氏の意見を証拠から除外するよう求める申し立てを即座に提出しました。両社は、ワザン氏の計算が陪審員に偏見を与える恐れがあるため、この措置が必要だと主張しています。申し立て書では、ワザン氏の計算は「でっち上げ」のように見え、これまで使ったことのない計算方法に基づいており、マスク氏を満足させるためだけに「作り出された」ものだと述べています。

OpenAIが指摘する問題点の一つは、ワザン氏がマスク氏がOpenAIを去った経緯を無視していることです。マスク氏は、OpenAIのリーダーシップが彼の貢献をどう評価するかで合意できなかったため、組織を離れました。しかし、ワザン氏の計算は、OpenAIが2017年のマスク氏の提案(新しい営利団体の51.2パーセントを支配する)に同意した架空のシナリオに基づいています。実際にはこの取引は成立しなかったため、なぜマスク氏が成立しなかった取引に基づいて損害賠償を受けるべきなのか不明だとOpenAIは主張しています。

また、マスク氏のxAIでの株式保有率が関連する理由も不明です。OpenAIは完全に別の会社であり、xAIの提供内容に合わせる義務はありません。ワザン氏は、xAIの実際の数字にアクセスすることさえ許されず、マスク氏がxAIの株式の53パーセントを所有していると推定する公開報道のみを参照したとされています。OpenAIは、ワザン氏がxAIの数字を含めたのは、マスク氏を喜ばせるために総損害額を膨らませるためだと非難しています。

専門家の計算方法への疑問

OpenAIとマイクロソフトの申し立て書によると、ワザン氏は「マスク氏が主張したい『経済的利益』の規模にほぼ対応する都合の良い要素を選び出し、それらの要素がマスク氏の主張を支持すると宣言した」ように見えると述べています。

さらに問題なのは、ワザン氏が、マスク氏とxAIが訴訟で提起された4つの請求のうち1つだけで勝訴しても、すべてで勝訴しても、まったく同じ総損害額を受け取るべきだと意見を述べたことです。これは通常の損害賠償計算の方法とは異なります。

OpenAIとマイクロソフトは、裁判所がワザン氏の計算を「信頼できない『ブラックボックス』」と認め、独立して検証できない計算に不適切に依存しているとして、彼の意見を除外することを望んでいます。ブラックボックスとは、内部の仕組みが見えず、どのように結果が導き出されたのか検証できないシステムのことです。

背景と経緯

この訴訟の背景には、マスク氏とOpenAIの複雑な関係があります。マスク氏は2015年にOpenAIの共同創設者の一人として参加し、初期の資金提供者でもありました。彼は約3800万ドル(約54億円)を投資し、これはOpenAIのシード資金の約60パーセントに相当します。

しかし、2018年にマスク氏はOpenAIを去りました。その理由は、OpenAIのリーダーシップがマスク氏の貢献をどう評価するかで合意できなかったためです。具体的には、2017年にマスク氏は新しい営利団体の51.2パーセントを支配することを提案しましたが、この提案は受け入れられませんでした。

その後、OpenAIは2019年に営利部門を設立し、マイクロソフトから数十億ドルの投資を受けました。一方、マスク氏は2023年に自身のAI企業xAIを設立し、OpenAIの競合となりました。OpenAIは、マスク氏の訴訟は競合企業の進歩を遅らせるための嫌がらせキャンペーンだと主張しています。

OpenAIの広報担当者は声明で「マスク氏の訴訟は根拠がなく、彼の継続的な嫌がらせパターンの一部です。私たちは裁判でこれを証明することを楽しみにしています。この最新の真剣でない要求は、この嫌がらせキャンペーンを推進することのみを目的としています」と述べています。

ワザン氏の計算の詳細と問題点

ワザン氏は「数十年の専門的および学術的経験を持つ金融経済学者であり、テクノロジースタートアップにシードレベルの資金を提供する成功したベンチャーキャピタル会社を経営してきた」とマスク氏の申し立て書に記載されています。OpenAIによると、ワザン氏はマスク氏の法務チームから3ヶ月前に連絡を受け、彼のコンサルティング会社BRGに電話が回されたと証言しています。

ワザン氏の任務は、マスク氏が3800万ドルをOpenAIに投資した後、どれだけの金額を受け取るべきかを算出することでした。また、主要な従業員の採用、ビジネス関係者の紹介、共同創設者への成功したスタートアップの運営方法の教育、そして自身の名声と評判の貸与といった、マスク氏の非金銭的貢献も考慮する必要がありました。

ワザン氏は証言で、この「事実パターン」は「かなりユニーク」であり、彼の計算は「教科書には載っていない」ものだと認めました。これは、ワザン氏が標準的な経済学の手法ではなく、独自の方法を使用したことを意味します。

OpenAIとマイクロソフトが指摘する最も重大な問題は、ワザン氏がマスク氏以外の誰の貢献も考慮しなかったことです。つまり、ワザン氏の分析は、共同創設者やマイクロソフトのような投資家の努力を割り引いただけでなく、「マスク氏が辞めた後の数年間にOpenAIの営利関連会社に数十億ドルを投資した」マイクロソフトの貢献も無視しました。さらに、ChatGPTを発明した科学者やプログラマーが「非営利団体の現在価値の0パーセントを貢献した」と見なしたとOpenAIは主張しています。ワザン氏は証言で「他のすべての人を知る必要はない」と述べました。

できること・できないこと

この訴訟により、マスク氏は理論上、最大1340億ドルの損害賠償を受け取ることができます。しかし、OpenAIとマイクロソフトは、ワザン氏の計算方法が信頼できないため、裁判所がこの専門家の意見を証拠から除外すべきだと主張しています。

一方で、この訴訟には多くの法的障害があります。OpenAIは、「私人が非営利団体に経済的利益を保有することは法的に不可能」であり、「ワザン氏は証言で、マスク氏がOpenAI非営利団体に寄付したときに金銭的リターンを期待していたと信じる理由がなかったことを認めた」と指摘しています。つまり、マスク氏が非営利団体に寄付した時点で、金銭的な見返りを期待していなかったことをワザン氏自身が認めているのです。

OpenAIの申し立て書は「陪審員に返還額を聞かせること、特に特定の不正行為とは無関係で、マスク氏が実際の寄付額の数千倍の金額を支払われる結果となる額を聞かせることは、陪審員を回復可能な救済について誤解させるリスクがあり、異議を唱えられた意見を認められないものにする」と述べています。

4月に始まる裁判で、マスク氏はこのような異例の損害賠償が正当であることを裁判所に納得させる必要があります。OpenAIは、マスク氏が失敗することを期待しています。

私たちへの影響

このニュースは、AI業界に関心を持つ人々、特にOpenAIのサービスを利用している人々や、テクノロジー企業への投資に関心がある人々に影響を与えます。

短期的な影響については、この訴訟がOpenAIの事業運営に直接的な影響を与える可能性は低いでしょう。OpenAIは声明で「私たちはOpenAI財団の強化に集中し続けており、これはすでに史上最も資金が豊富な非営利団体の一つです」と述べています。しかし、訴訟の準備と対応には時間とリソースが必要となり、新製品の開発や既存サービスの改善に割くリソースが減る可能性があります。

中長期的な影響としては、この訴訟の結果がAI業界における非営利団体から営利企業への移行のあり方に影響を与える可能性があります。もしマスク氏が勝訴すれば、初期の寄付者や投資家が後から巨額の損害賠償を請求できる前例となり、非営利のテクノロジー組織の設立が難しくなるかもしれません。逆に、OpenAIが勝訴すれば、非営利団体が営利部門を設立する際の法的枠組みがより明確になるでしょう。

ただし、この訴訟は現時点では主張の段階であり、4月の裁判で実際にどのような判決が下されるかはまだわかりません。また、OpenAIのサービス自体には現時点で変更はなく、ChatGPTなどの製品は通常通り利用できます。利用者としては、訴訟の行方を注視しつつ、サービスの品質や利用規約の変更に注意を払うことが重要です。

出典:Elon Musk accused of making up math to squeeze $134B from OpenAI, Microsoft(arstechnica.com)

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