中国オープンソースAIが急成長、米国製に匹敵する性能を7分の1のコストで実現

中国のAI企業が2025年以降、オープンソースAIモデルで急成長。DeepSeekやAlibabaのQwenが米国製モデルに匹敵する性能を低コストで実現。開発者向けに無料公開され、世界のAI開発の主導権が変化しつつあります。

中国オープンソースAIが急成長、米国製に匹敵する性能を7分の1のコストで実現

2025年1月、中国のDeepSeek社が推論モデル「R1」を発表したことを契機に、中国のAI業界は大きな転換点を迎えました。このモデルは、米国の主要AI企業が開発したシステムと同等の性能を持ちながら、コストは大幅に低く抑えられています。さらに重要なのは、このモデルが「オープンウェイト」として公開されたことです。オープンウェイトとは、AIモデルの学習済みパラメータ(重み)を誰でもダウンロードして利用できる形式のことです。これにより、世界中の開発者が自由に研究、改良、商用利用できるようになりました。

この動きはDeepSeekだけにとどまりません。2025年2月には、Moonshot AI社が「Kimi K2.5」を発表し、Anthropic社の高性能モデル「Claude Opus」に迫る性能を約7分の1の価格で実現しました。また、Alibaba社の「Qwen」シリーズは、AI開発者向けプラットフォームHugging Faceで、Meta社の「Llama」を抜いて累計ダウンロード数1位となりました。MITの最近の調査では、中国のオープンソースモデルが米国製モデルを総ダウンロード数で上回ったことが明らかになっています。

なぜこれが重要なのでしょうか。従来、ChatGPTやClaudeのような最先端AIは、利用料を支払ってアクセスする「プロプライエタリ」(独占的)なサービスでした。内部の仕組みは公開されず、企業が提供する形でしか使えませんでした。しかし中国企業は、同等の性能を持つモデルを無料で公開し、誰でも自由に改良できるようにしています。これは、AI技術の革新がどこで起こり、誰が標準を決めるかという根本的な問題に関わります。世界中の開発者が最先端AI技術に低コストでアクセスできるようになり、AI開発の民主化が進んでいるのです。

DeepSeekの衝撃と中国のオープンソース戦略

DeepSeekのR1モデルが発表されたとき、多くの人が驚いたのはその出自でした。中国のチームが、米国の主要研究所の最高水準システムと肩を並べる推論モデルを開発したのです。推論モデルとは、複雑な問題を段階的に考えて解決するAIのことです。例えば、数学の問題を解く際に、人間のように途中の計算過程を示しながら答えを導き出します。

しかし、DeepSeekの影響はその性能以上に、配布方法にありました。R1は「MITライセンス」という非常に自由度の高いライセンスで公開されました。これにより、誰でもダウンロードして、内部を調べ、自分のサービスに組み込むことができます。さらにDeepSeekは、モデルの訓練方法を詳しく説明した論文も公開しました。API経由でモデルを利用する開発者向けには、当時の主要な推論モデルであるOpenAIの「o1」の数分の1という破格の価格を提示しました。

発表から数日以内に、DeepSeekは米国のApp Storeで無料アプリのダウンロード数1位となり、ChatGPTを抜きました。この出来事は開発者コミュニティを超えて金融市場にも波及し、米国のテクノロジー株が急落、一時的に約1兆ドル(約150兆円)の時価総額が失われました。一夜にして、DeepSeekはヘッジファンド系の無名なスピンオフチームから、中国のオープンソースAI推進の象徴となったのです。

背景と経緯

中国がオープンソース戦略に注力するのは、戦略的な判断です。中国は米国に次ぐ世界第2位のAI人材を擁し、豊富な資金を持つテクノロジー産業があります。2022年にChatGPTが世界的に注目を集めた後、中国のAI業界は危機感を抱き、追いつくことを決意しました。オープンソース戦略は、開発者を結集し、採用を広げ、標準を設定する最速の方法と見なされたのです。

実は、DeepSeekの成功は中国初のオープンソース成功例ではありません。Alibaba社のQwen Labは何年も前からオープンウェイトモデルを公開していました。2024年9月、DeepSeekのV3が発表されるずっと前に、Alibabaはグローバルダウンロード数が6億回を超えたと発表していました。Hugging Faceでは、Qwenが2024年の全モデルダウンロードの30%以上を占めていました。北京人工知能研究院やBaichuanなどの機関も、2023年という早い段階からオープンモデルを公開していました。

しかしDeepSeekの成功以降、この分野は急速に拡大しました。Z.ai(旧Zhipu)、MiniMax、Tencent、そして多数の小規模研究所が、推論、コーディング、エージェント型タスクで競争力のあるモデルを発表しています。有能なモデルの数が増えたことで、進歩のスピードが加速しました。かつてオープンソース化に数カ月かかった機能が、今では数週間、時には数日で実現されています。

清華大学のコンピュータサイエンス教授でAIスタートアップModelBestの主任科学者である劉知遠氏は、「中国のAI企業はオープンソース戦略から実際の利益を得ています。強力な研究成果を公開することで、評判を築き、無料の宣伝効果を得られます」と述べています。劉氏によれば、商業的インセンティブを超えて、オープンソースは文化的・戦略的な重みを持つようになりました。「中国のプログラマーコミュニティでは、オープンソースが政治的に正しいものになっています」と、米国のプロプライエタリAIシステムへの対抗として位置づけています。

技術的な詳細と多様化するモデル

中国のオープンソースモデルは、ダウンロード数だけでなく多様性でもリードしています。AlibabaのQwenは、流通している中で最も多様化したオープンモデルファミリーの1つとなり、さまざまな用途に最適化された幅広いバリエーションを提供しています。ラインナップは、ノートパソコン1台で動作する軽量モデルから、データセンター配置用に設計された数千億パラメータの大規模システムまで多岐にわたります。

パラメータとは、AIモデルが学習によって獲得する知識を数値化したものです。一般的に、パラメータ数が多いほど高性能ですが、動作に必要な計算資源も増えます。Qwenには、コミュニティが作成した多くのタスク最適化バリエーションがあります。例えば「instruct」モデルは指示に従うのが得意で、「code」バリエーションはプログラミングに特化しています。

この戦略は中国の研究所に限ったものではありませんが、Qwenは非常に多くの高品質オプションを展開した最初のオープンモデルファミリーであり、まるで完全な製品ラインのように感じられます。しかも無料で使えるのです。

オープンウェイトという性質により、他の開発者が「ファインチューニング」や「蒸留」といった技術で簡単に適応させることができます。ファインチューニングとは、既存のモデルを特定のタスク向けに追加学習させることです。蒸留とは、大きなモデルの知識を小さなモデルに移植する技術です。AI研究者ネイサン・ランバート氏のプロジェクトATOMによると、2025年8月4日時点で、Hugging Faceの新しい言語モデル派生版の40%以上がQwenから派生したものであり、Llamaは約15%に落ち込みました。つまり、Qwenがすべての「リミックス」のデフォルトベースモデルになったのです。

できること・できないこと

この技術により、世界中の開発者が最先端のAI機能に低コストでアクセスできるようになります。例えば、スタートアップ企業が数百万円の予算で、以前なら数千万円かかったような高度なAIサービスを構築できます。また、研究者は内部の仕組みを詳しく調べて、新しい改良方法を発見できます。教育機関では、学生が実際の最先端モデルを使って学習できるようになります。

さらに、小型で特化したモデルの開発が進んでいます。劉氏のModelBest社は、スマートフォンや自動車などの消費者向けハードウェアでローカルに動作する小型言語モデルに注力しています。「計算能力とエネルギーは、あらゆる展開において実際の制約です」と劉氏は述べています。小型モデルの台頭は、AIをより安価に動作させ、より多くの人が使いやすくすることを目的としています。

一方で、まだ課題もあります。オープンソースモデルは誰でも利用できるため、悪用のリスクがあります。有害なコンテンツの生成や、セキュリティ上の脆弱性を突く攻撃に使われる可能性があります。また、これらのモデルを商業的に持続可能にする方法も明確ではありません。多くの企業が無料でモデルを公開していますが、長期的にどのように収益を上げるかはまだ模索中です。2026年1月にZ.aiとMiniMaxが香港で株式公開しましたが、Hugging Faceのティエジェン・ワン氏は「今は市場を拡大することに焦点が当てられていますが、次の課題は各企業がどのようにシェアを確保するかです」と指摘しています。

私たちへの影響

このニュースは、AI技術を利用する企業、開発者、そして一般ユーザーに大きな影響を与えます。

短期的な影響については、AI開発のコストが劇的に下がることが挙げられます。これまで大企業しか利用できなかった高度なAI機能が、中小企業やスタートアップでも手が届くようになります。例えば、カスタマーサポートの自動化、文書の要約、プログラミング支援など、さまざまな業務でAIを活用しやすくなります。また、日本企業も中国製のオープンソースモデルを自社サービスに組み込むことで、開発期間を短縮し、コストを削減できます。

中長期的な影響としては、AI技術の標準を誰が決めるかという力学が変化する可能性があります。これまで米国企業が主導してきたAI開発において、中国企業が重要な役割を果たすようになります。オープンソースモデルが主流になれば、特定の企業に依存せず、より多様な選択肢から最適なAIを選べるようになります。また、AI技術の透明性が高まり、研究者がモデルの内部を詳しく調べられるため、安全性や公平性の向上にもつながる可能性があります。

ただし、注意点もあります。オープンソースモデルは自由に利用できる反面、悪用のリスクも高まります。また、中国製モデルを利用する際には、データのプライバシーや国際的な規制の動向にも注意が必要です。米国と中国の技術競争が激化する中で、どのモデルを選ぶかは単なる技術的判断だけでなく、ビジネス戦略や地政学的な考慮も必要になるでしょう。

出典:What’s next for Chinese open-source AI(www.technologyreview.com)

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