DoorDashが「AI訓練用ギグワーク」アプリを開始、日常作業を撮影して報酬

米国の配達サービス大手DoorDashが、AI学習用データ収集アプリ「Tasks」を開始。利用者は洗濯や料理などの日常作業を撮影し報酬を得る。時給15ドルだが実際の収入は低く、AI時代のギグワークの課題が浮き彫りに。

DoorDashが「AI訓練用ギグワーク」アプリを開始、日常作業を撮影して報酬

米国の配達サービス大手DoorDashが、新しいギグワークアプリ「Tasks」の提供を開始しました。このアプリは食品配達とは全く異なり、利用者が洗濯や料理などの日常作業を撮影することで、AI(人工知能)やロボットの学習用データを収集するものです。報酬は作業の複雑さに応じて事前に提示され、多くの作業は時給15ドル(約2,250円)と設定されています。

このサービスは、生成AIとは、文章や画像を自動生成する人工知能技術のことです。また、ヒューマノイドロボットとは、人間の形をしたロボットを指します。これらの技術を改善するには、人間が実際に作業する様子を撮影した大量の動画データが必要になります。例えば、洗濯物をたたむ動画を何千本も学習させることで、ロボットが同じ作業を理解できるようになるのです。

しかし、実際に試した記者によると、作業内容に対して報酬は低く、3つの作業を完了しても10ドル未満でした。また、公共の場所での撮影では他人を映さないよう注意が必要で、実行が困難な場面もありました。このアプリは、AI時代における新しい形のギグワーク、つまり短期的な単発仕事の在り方を示すものとして注目されています。

Tasksアプリの仕組みと作業内容

DoorDashのTasksアプリでは、利用者はスマートフォンを胸に装着して、自分の手が作業する様子を撮影します。アプリに登録後、最初の課題として3つの物体をテーブル上で移動させる様子を撮影すると、無料のスマートフォン用ボディマウント(胸部装着具)が送られてきます。

現在提供されている作業は、大きく5つのカテゴリーに分類されます。家事作業には、ベッドメイキング、食器洗い機への食器の積み込み、植物の植え替え、ゴミ出しなどが含まれます。手作業プロジェクトは、電球の交換からセメントを注ぐ作業まで幅広くあります。料理作業は主に卵料理で、目玉焼き、ポーチドエッグ、スクランブルエッグなどです。ナビゲーション作業では、博物館の探索やアパート周辺の散策を撮影します。言語作業では、ロシア語や中国語での自然な会話の録音が求められます。

各作業には独自の要件があり、DoorDashが定めた全体的なルールも存在します。未成年者、個人データ、違法なものを撮影しないこと、他人を撮影する前に必ず同意を得ることなどが含まれます。また、病院、学校、刑務所、空港、軍事基地などでの撮影は禁止されています。

背景と経緯

生成AIやロボット工学の分野では、機械が人間の動作を理解するために、実際の人間の作業を撮影した大量のデータが必要とされています。これまで、このようなデータ収集は専門の研究機関や企業内で行われることが多く、一般の人々が参加する機会は限られていました。

DoorDashは、すでに数百万人の配達員ネットワークを持つ企業です。同社はこのネットワークを活用し、AI学習用データの収集を一般の人々に開放することで、新しいビジネスモデルを構築しようとしています。同社のプレスリリースによると、「このデータはAIとロボットシステムが物理世界を理解するのに役立つ」としています。

現在、このアプリは米国内の一部地域で利用可能です。ただし、カリフォルニア州、ニューヨーク市、シアトル、コロラド州の住民は明示的に利用が制限されています。これらの地域では、ギグワーカーの権利保護に関する法規制が厳しいためと考えられます。

実際の作業体験と報酬の実態

記者が実際に試した洗濯作業では、時給15ドルで最大20分という条件でした。洗濯物を1枚ずつカメラの前に持ち上げ、洗濯機に入れる様子を撮影します。スマートフォンは手が画面から外れるたびに警告音を発し、洗濯物で指が隠れただけでも反応しました。ゆっくり作業しても、10枚の衣類を洗濯機に入れるのに約1分30秒しかかからず、この動画で得られる報酬は推定0.37ドル(約55円)でした。

卵料理の作業も同じ時給設定でした。卵を割るところから調理完了まで、手と卵を常に画面内に収め、撮影を止めずに記録する必要があります。作業を引き延ばして卵を焦がすまで続けても、最大で5ドル(約750円)しか稼げませんでした。

公園探索のナビゲーション作業では、スマートフォンを胸ポケットに入れて公園内を歩き、目印となる場所や道の分岐点を撮影します。しかし、ほとんど人がいない公園でも、ベビーカーを押してジョギングする母親などを避けるのは困難でした。記者は約5分で作業を中断しました。ホテルのロビーや博物館など、より混雑した場所での同様の作業では、他人の同意を得ずに撮影しないというDoorDashのルールを守ることは、ほぼ不可能に思えます。

できること・できないこと

このTasksアプリにより、一般の人々がAI開発に貢献しながら副収入を得ることが可能になります。例えば、自宅で洗濯や料理をする際に、その様子を撮影するだけで報酬を得られます。また、散歩のついでに公園や建物内を撮影することで、ナビゲーション用のデータを提供できます。特別なスキルは不要で、日常生活の中で気軽に参加できる点が特徴です。

一方で、まとまった収入を得ることは難しいのが現状です。記者が3つの作業を完了しても、得られた報酬は10ドル未満でした。時給15ドルと表示されていても、実際の作業時間は数分で終わることが多く、結果として時給換算すると大幅に低くなります。また、公共の場所での撮影では、他人のプライバシーを侵害しないよう常に注意が必要で、実際には作業を完了できない場合もあります。将来的には、より多様な作業や高い報酬設定が導入される可能性がありますが、現時点では本業として成り立つ収入源にはなりません。

私たちへの影響

このニュースは、副収入を求める人々や、AI技術の発展に関心がある人々に影響を与えます。短期的には、新しい形の在宅ワークの選択肢が増えることになります。特に、外出が難しい人や、隙間時間を活用したい人にとっては、手軽に始められる副業として魅力的に映るかもしれません。

中長期的な影響としては、AI開発のためのデータ収集が一般化し、ギグワークの新しい形態として定着する可能性があります。現在、生成AIやロボット工学の分野には数十億ドルの投資が行われており、データ収集の需要は今後も増加すると予測されます。これにより、より多くの企業が同様のサービスを開始し、競争によって報酬が改善される可能性もあります。

ただし、プライバシーの問題には十分な注意が必要です。公共の場所での撮影では、意図せず他人を撮影してしまうリスクがあります。また、現在の報酬水準では、時間に見合った収入を得ることは困難です。このようなAI時代のギグワークに参加する際は、作業内容と報酬のバランスを慎重に検討し、プライバシー保護のルールを厳守することが重要です。

出典:I Tried DoorDash’s Tasks App and Saw the Bleak Future of AI Gig Work(www.wired.com)

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