Metaが2025年12月、シンガポールのAIスタートアップManusを20億ドルで買収。求人選考や旅行計画を自動化するAIエージェントが話題に。Facebook、Instagram、WhatsAppに統合予定。
Meta、話題のAIスタートアップManusを20億ドルで買収
Metaは2025年12月、シンガポールを拠点とするAIスタートアップのManusを20億ドル(約3000億円)で買収すると発表しました。Manusは2025年春にデモ動画を公開し、わずか数ヶ月で注目を集めた企業です。同社のAIエージェントは、求人候補者の選考、旅行計画の立案、株式ポートフォリオの分析など、複雑な業務を自動化できることで知られています。
この買収は、AI分野に巨額投資を続けるMetaのマーク・ザッカーバーグCEOにとって重要な一手です。Manusは月額39ドルまたは199ドルのサブスクリプションモデルで、すでに数百万人のユーザーを獲得し、年間経常収益1億ドル(約150億円)を達成しています。これは、多くのAI企業が収益化に苦戦する中で異例の成功例です。
Metaは今後、Manusを独立企業として運営しながら、そのAIエージェント技術をFacebook、Instagram、WhatsAppに統合する計画です。これにより、すでに提供されているMeta AIチャットボットに加えて、より高度な自動化機能がMetaのプラットフォームで利用可能になります。ただし、Manusの創業者が中国出身であることから、米国議会では安全保障上の懸念も指摘されています。
Manusの急成長と注目を集めた理由
Manusは2025年春に突如として登場し、シリコンバレーで大きな話題となりました。同社が公開したデモ動画は瞬く間に拡散され、その洗練された内容が業界関係者の注目を集めました。動画では、AIエージェントが人間の代わりに複雑な業務を遂行する様子が示されていました。
具体的には、求人応募者の履歴書を分析して適性を判断したり、予算や好みに基づいて旅行プランを作成したり、株式市場のデータを分析して投資判断の材料を提供したりする機能です。Manusは当時、OpenAIのDeep Research(ディープリサーチ、深い調査を行うAIツール)を上回る性能を持つと主張していました。
この注目度の高さから、2025年4月には著名ベンチャーキャピタルのBenchmarkが主導する7500万ドルの資金調達ラウンドが実施されました。この時点でManusの企業価値は5億ドルと評価されています。わずか数週間での評価額としては異例の高さです。中国メディアによると、それ以前にもTencent(テンセント)、ZhenFund(真格基金)、HSG(旧Sequoia China、紅杉中国)などが1000万ドルの初期投資を行っていたとされています。
収益化の成功と投資家の関心
Manusは月額39ドルまたは199ドルのサブスクリプション料金を設定し、AIモデルへのアクセスを提供し始めました。Bloombergは当初、まだテスト段階のサービスとしては「やや強気な価格設定」と指摘していましたが、この戦略は成功しました。
同社は最近、数百万人のユーザーを獲得し、年間経常収益が1億ドルを超えたと発表しました。年間経常収益とは、サブスクリプションなどの継続的な収入を年間ベースで計算したもので、企業の安定性を示す重要な指標です。多くのAIスタートアップが無料提供や低価格戦略で苦戦する中、Manusの収益化成功は投資家にとって魅力的でした。
Wall Street Journalによると、この収益実績を受けてMetaがManusとの交渉を開始しました。買収額の20億ドルは、Manusが次回の資金調達で目指していた企業価値と同額です。わずか8ヶ月で企業価値が5億ドルから20億ドルへと4倍になった計算になります。
Metaにとっての戦略的意義
マーク・ザッカーバーグCEOは、Metaの将来をAI技術に賭けています。同社はAIインフラストラクチャに600億ドル(約9兆円)という巨額の投資を行っており、投資家からはその支出に対する懸念の声も上がっていました。
Manusの買収は、Metaにとって重要な意味を持ちます。それは、実際に収益を上げているAI製品を手に入れることができるからです。多くのAI企業が技術的な可能性を示すだけで収益化に苦戦している中、Manusはすでにビジネスモデルを確立しています。
Metaは、Manusを独立した企業として運営し続ける方針を示しています。同時に、ManusのAIエージェント技術をFacebook、Instagram、WhatsAppに統合する計画です。これらのプラットフォームでは、すでにMeta AIというチャットボットがユーザーに提供されていますが、Manusの技術により、より高度な自動化機能が追加されることになります。
中国との関係と政治的な課題
この買収には複雑な背景があります。Manusは8ヶ月前に設立されたばかりですが、その創業者は中国出身です。親会社のButterfly Effectは2022年に北京で設立され、2025年半ばにシンガポールに移転しました。
この中国との関係が、米国ワシントンで問題視される可能性があります。テキサス州選出の共和党上院議員で上院情報委員会の有力メンバーであるジョン・コーニン議員は、すでに2025年5月にBenchmarkの投資を批判していました。議員はX(旧Twitter)で「米国の投資家が、AI分野で最大の競争相手に資金を提供し、中国共産党がその技術を経済的・軍事的に利用することを誰が良いアイデアだと思うのか。私は思わない」と投稿しています。
コーニン議員は長年、中国と技術競争に関して議会で最も強硬な立場を取ってきた人物の一人です。しかし、彼だけではありません。中国に対して厳しい姿勢を取ることは、米国議会で数少ない超党派の合意事項となっています。
これに対してMetaは、日本経済新聞の姉妹紙であるNikkei Asiaに対し、買収後のManusは中国の投資家との関係を持たず、中国での事業も停止すると説明しています。Meta広報担当者は「取引完了後、Manus AIには中国の所有権は一切残らず、Manus AIは中国でのサービスと事業を停止します」と述べました。
できること・できないこと
Manusの技術により、企業や個人はこれまで人間が行っていた複雑な業務を自動化できるようになります。例えば、人事部門では求人応募者の履歴書を自動的に分析し、職務要件との適合性を評価することができます。また、個人ユーザーは予算や好みを伝えるだけで、AIが最適な旅行プランを作成してくれます。投資家は株式ポートフォリオの分析をAIに任せ、市場動向に基づいた提案を受けることも可能です。
Meta傘下に入ることで、これらの機能がFacebook、Instagram、WhatsAppで利用できるようになる可能性があります。例えば、WhatsAppでビジネスアカウントを運営する企業が、顧客対応や予約管理を自動化できるかもしれません。Instagramのクリエイターは、コンテンツ戦略の分析や投稿スケジュールの最適化をAIに任せられるでしょう。
一方で、まだ明らかになっていないこともあります。Metaがどの程度の速さでManusの技術を自社プラットフォームに統合するかは不明です。また、現在のManus単体のサービスがどのような形で継続されるのか、既存ユーザーへの影響も詳細は発表されていません。さらに、米国政府が中国との関係を理由に買収を審査する可能性もあり、取引完了までには時間がかかる可能性があります。
私たちへの影響
このニュースは、MetaのSNSを日常的に使用している一般ユーザーと、ビジネスでこれらのプラットフォームを活用している企業の両方に影響を与えます。
短期的には、Facebook、Instagram、WhatsAppでより高度なAI機能が利用できるようになる可能性があります。現在のMeta AIチャットボットは基本的な質問応答や画像生成ができますが、Manusの技術が加わることで、より複雑な業務の自動化が可能になるでしょう。例えば、イベントの企画、複雑な情報の分析、多段階のタスク管理などです。
中長期的には、AIエージェントが日常生活やビジネスでより重要な役割を果たすようになると予測されます。人間が指示を出すだけで、AIが複数のステップを経て目標を達成する時代が近づいています。Metaのような大手プラットフォームがこの技術を統合することで、AI活用の敷居が下がり、より多くの人が恩恵を受けられるようになります。
ただし、注意すべき点もあります。AIエージェントが高度になるほど、プライバシーやデータセキュリティの問題も重要になります。また、業務の自動化が進むことで、特定の職種への影響も考えられます。さらに、米中関係の緊張が続く中、技術の国際的な移転や規制の動向にも注目する必要があるでしょう。
