OpenAIが2026年1月、科学者向けの無料AIワークスペース「Prism」を公開。GPT-5.2を搭載し、論文執筆や文献管理を支援。研究の自動化ではなく、科学者の作業効率化を目的とした新ツール。
OpenAI、科学者向け無料AIワークスペース「Prism」を公開―論文執筆を支援
OpenAIは2026年1月27日、科学者向けの新しいAIワークスペース「Prism」を公開しました。このツールは、同社の最新AI「GPT-5.2」を搭載しており、論文の執筆、文献の引用、共同作業などを一つの環境で行えます。OpenAIは2025年秋から科学分野へのAI活用を強化しており、Prismはその第一歩となります。同社は「2025年にAIがソフトウェア開発を変えたように、2026年には科学研究に同様の変化が起きる」と述べています。Prismは研究を自動化するのではなく、科学者の日常的な作業を効率化することを目的としています。ChatGPTの個人アカウントがあれば誰でも無料で利用でき、プロジェクト数や共同作業者の人数に制限はありません。科学研究の現場では、複数のツールを行き来する煩雑さが課題となっていましたが、Prismはこれらを統合することで、研究者がより本質的な作業に集中できる環境を提供します。
Prismの主な機能と仕組み
Prismは、科学論文の執筆に特化したクラウドベースのワークスペースです。画面は左側にチャット画面、右側に執筆中の論文が表示される構成になっています。LaTeX形式とは、科学論文で広く使われる文書作成システムのことです。数式や図表を美しく表示できるため、理工系の研究者に好まれています。PrismはこのLaTeX形式をネイティブでサポートしています。
複数のAIエージェントを同時に使えることが特徴です。例えば、一つのエージェントにarXiv(科学論文の公開サイト)から文献を探させながら、別のエージェントに講義ノートを作成させることができます。引用文献は自動的に適切な形式で挿入されます。数式や図表の作成、複数の文書の同時編集も可能です。GPT-5.2 Thinkingモードを使えば、仮説の検証も支援してくれます。
OpenAIはCrixetという既存のプラットフォームを買収し、それをベースにPrismを開発しました。これにより、科学者が使い慣れた機能を維持しながら、AI機能を追加できました。
背景と経緯
OpenAIは2025年秋から、科学分野へのAI活用を重点戦略として掲げてきました。同社は数学的発見、細胞分析、生物学実験など、さまざまな科学分野でのAI活用事例を発表してきました。2025年12月にはGPT-5.2をリリースし、「人間の専門家レベル以上の性能」を達成したと発表しています。
しかし、現在の科学研究の現場では、研究者は多くのツールを使い分けなければなりません。文書編集ソフト、PDF閲覧ソフト、LaTeXコンパイラ、文献管理ツール、チャットツールなどを行き来することで、集中力が途切れ、作業の文脈が失われてしまいます。OpenAIはこの問題を解決するため、すべての機能を一つの環境に統合したPrismを開発しました。
AI業界全体でも、単なるチャットボットから、実際の作業環境に統合されたAIアシスタントへの移行が進んでいます。AnthropicのClaudeがSlackやAsanaと連携したように、OpenAIもPrismで同様の方向性を示しています。
技術的な詳細
PrismはGPT-5.2を中核技術として使用しています。GPT-5.2は、OpenAIが2025年12月にリリースした最新のAIモデルで、推論能力が大幅に向上しています。推論モデルとは、答えを出す前に段階的に考えるプロセスを経るAIのことです。人間が問題を解くときに、いきなり答えを出すのではなく、順を追って考えるのと似ています。
この推論プロセスにより、引用文献の捏造(ハルシネーション)が起きにくくなるとOpenAIは説明しています。AIが文献を引用する際、実際に内容を確認してから引用するため、存在しない論文を引用してしまう問題が減るというわけです。ただし、これがすべてのケースで保証されるかは、まだ検証が必要です。
プライバシー面では、Prismは個人のChatGPTアカウントを通じてアクセスするため、ChatGPTと同じプライバシー保護措置が適用されます。未発表の研究データをアップロードすることへの懸念に対し、OpenAIは既存のセキュリティ対策が適用されると説明しています。
できること・できないこと
Prismを使うと、論文の下書き作成、文献の検索と引用、数式や図表の作成、共同執筆者との協働作業が一つの環境で行えます。例えば、研究テーマを入力すると、関連する文献を自動的に探して引用付きの講義ノートを作成できます。また、複雑な数式をLaTeX形式で正確に記述したり、研究仮説をAIと対話しながら検証したりすることも可能です。複数の研究者が同時に同じ文書を編集でき、それぞれが異なるAIエージェントを使って作業を進められます。
一方で、Prismは研究そのものを自動化するツールではありません。OpenAIのCEOサム・アルトマンは2025年10月、2026年9月までに「研究インターン」レベルのツールを、2028年3月までに完全自動化された研究AIを目指すと述べましたが、Prismはそのレベルには達していません。OpenAIは2025年11月の論文で、GPT-5は「探索の範囲を広げ、専門家の作業を速める」ことはできても、プロジェクトの運営や問題解決を単独で行うべきではないと明言しています。デモでも、開発者はPrismを「パワーツール」と表現し、科学者の代替ではないと強調しました。
また、AI業界全体が競争のために急速にモデルをリリースしている現状で、科学のような事実重視の分野での精度がどこまで保証されるかは不透明です。GPT-5のベンチマーク性能は競合モデルと同等ですが、実際の科学研究での信頼性は今後の検証が必要でしょう。
私たちへの影響
このニュースは、科学研究に携わる人々、特に論文執筆や文献管理に時間を取られている研究者に大きな影響を与えます。Prismにより、これまで複数のツールを使い分けていた煩雑な作業が一つの環境で完結するため、研究の本質的な部分により多くの時間を割けるようになります。
短期的には、論文執筆のスピードが上がり、文献管理の手間が減ることが期待できます。特に、LaTeX形式での執筆に慣れていない若手研究者にとっては、学習コストを下げる効果もあるでしょう。無料で利用できるため、予算の限られた研究室でも導入しやすい点も重要です。
中長期的には、AI支援による研究の効率化が進み、より多くの科学的発見が生まれる可能性があります。ただし、OpenAIも認めているように、科学に対する社会の信頼が揺らいでいる現状で、AIの関与が透明性や再現性にどう影響するかは慎重に見守る必要があります。OpenAIは「AIを遠ざけるのでも、見えないところで動かすのでもなく、科学者が主導権を保ちながら直接ワークフローに統合する」ことが正しいアプローチだと述べています。
ただし、AIが生成した内容の正確性は最終的に研究者自身が確認する必要があります。引用文献の捏造リスクは減ったとはいえ、完全にゼロではありません。また、未発表データをクラウドサービスにアップロードすることへのセキュリティ懸念も残ります。研究倫理や知的財産の観点から、どこまでAIに頼るべきかは、各研究機関や研究者が慎重に判断する必要があるでしょう。
