Signal共同創業者のMoxie Marlinspike氏が、プライバシー重視のAIチャットサービス「Confer」を2024年12月に公開。会話データは広告や学習に使われず、暗号化技術で保護される。月額35ドルで無制限利用可能。
Signal創業者が「プライバシー重視のAIチャット」を公開、会話データは収集されず
暗号化メッセージアプリ「Signal」の共同創業者であるMoxie Marlinspike氏が、2024年12月に新しいAIチャットサービス「Confer」を公開しました。このサービスは、ChatGPTやClaudeと同じように使えるAIアシスタントですが、ユーザーの会話データを一切収集しない点が大きな特徴です。OpenAIが広告配信のテストを開始するなど、AI企業によるデータ収集への懸念が高まる中、Conferはプライバシーを最優先に設計されています。会話内容は暗号化され、運営側も含めて誰もアクセスできない仕組みになっています。このため、会話データがAIの学習に使われたり、広告のターゲティングに利用されたりすることはありません。Marlinspike氏は「チャットインターフェースは人々から告白を引き出す技術だ」と指摘し、そうした親密な情報が広告に利用されることへの警鐘を鳴らしています。
Conferの基本的な仕組みと特徴
Conferは、見た目や使い心地はChatGPTやClaudeと同じようなチャットインターフェースを持っています。しかし、その裏側の仕組みは大きく異なります。最も重要な違いは、ユーザーの会話データが運営側に渡らない設計になっている点です。
無料プランでは1日20メッセージまで、同時に5つのチャットまで利用できます。月額35ドル(約5,000円)の有料プランでは、メッセージ数が無制限になり、より高度なAIモデルや個人向けカスタマイズ機能が使えます。ChatGPTの有料プラン(月額20ドル)と比べると高額ですが、これはプライバシー保護のための複雑な技術的コストを反映しています。
背景と経緯
このサービスが登場した背景には、AI企業によるデータ収集への懸念の高まりがあります。現在、ChatGPTやClaudeなどのAIサービスを使うと、会話内容は運営会社のサーバーに保存されます。これらのデータは、AIモデルの改善や、場合によっては広告配信に利用される可能性があります。
特に問題視されているのが、OpenAIが広告配信のテストを開始したことです。FacebookやGoogleが検索履歴や閲覧履歴から広告を表示するように、AIチャットの会話内容から広告が表示される未来が現実味を帯びてきました。Marlinspike氏は「セラピストにお金を払って、あなたに何かを買わせるよう説得させるようなものだ」と例えています。
Marlinspike氏は、プライバシー重視のメッセージアプリ「Signal」の開発で知られる人物です。Signalは、エンドツーエンド暗号化とは、送信者と受信者以外は誰も内容を読めない暗号化方式のことです。この技術により、運営会社でさえメッセージ内容を見ることができません。Conferは、この考え方をAIチャットサービスに応用したものと言えます。
技術的な詳細
Conferのプライバシー保護は、複数の技術を組み合わせて実現されています。まず、ユーザーとサーバー間の通信は「WebAuthn」という認証システムで暗号化されます。WebAuthnとは、パスワードの代わりに生体認証や専用キーを使う新しい認証方式のことです。指紋認証や顔認証でログインするイメージです。この技術は、iPhoneやMacでは標準的に使えますが、WindowsやLinuxではパスワードマネージャーが必要になります。
サーバー側では「TEE(Trusted Execution Environment)」という特殊な環境でAI処理が行われます。TEEとは、コンピュータの中に作られた隔離された安全な領域のことです。銀行のATMが現金を保管する金庫のように、外部から侵入できない保護された空間で処理が実行されます。さらに「リモート認証」という仕組みで、このシステムが改ざんされていないことを常に確認しています。
この環境の中で、複数のオープンソースAIモデルが動作しています。オープンソースとは、プログラムの中身が公開されており、誰でも検証できる状態のことです。Signalが信頼されているのも、このオープンソースの透明性によるものです。
通常のAIサービスと比べると、Conferの仕組みははるかに複雑です。しかし、この複雑さこそが「運営側も含めて誰も会話内容にアクセスできない」という約束を実現しています。
できること・できないこと
Conferでは、ChatGPTやClaudeと同じように、質問への回答、文章の作成、プログラミングの支援、アイデア出しなどができます。例えば、個人的な悩み相談、医療に関する質問、財務情報を含む相談など、他人に知られたくない内容でも安心して入力できます。会話内容は暗号化されており、運営側も含めて誰もアクセスできないためです。
一方で、いくつかの制約もあります。まず、WebAuthnの認証システムが最も快適に動作するのは、iPhoneやMac(macOS Sequoia以降)です。WindowsやLinuxでも使えますが、パスワードマネージャーの設定が必要になります。また、無料プランでは1日20メッセージまでという制限があり、頻繁に使う人には物足りないかもしれません。
料金面では、月額35ドルという価格は、ChatGPT Plus(月額20ドル)やClaude Pro(月額20ドル)と比べて高額です。これは、プライバシー保護のための複雑な技術インフラにコストがかかるためです。今後、利用者が増えれば価格が下がる可能性もありますが、現時点では「プライバシーには相応の対価が必要」という状況です。
私たちへの影響
このニュースは、AIサービスを日常的に使う人々、特にプライバシーを重視する人々に大きな意味を持ちます。これまで、AIチャットサービスを使う際には、会話内容が企業に収集されることを受け入れるしかありませんでした。Conferの登場により、プライバシーを守りながらAIを活用するという選択肢が生まれました。
短期的な影響としては、医療相談、法律相談、心理カウンセリングなど、機密性の高い分野でのAI活用が進む可能性があります。これまでは情報漏洩のリスクから躊躇していた専門家も、Conferのような仕組みなら安心して利用できるでしょう。また、企業の機密情報を扱う業務でも、情報漏洩を心配せずにAIアシスタントを活用できるようになります。
中長期的な影響としては、AI業界全体でプライバシー保護の重要性が再認識される可能性があります。OpenAIやAnthropicなどの大手企業も、Conferのような取り組みに対抗して、プライバシー保護機能を強化するかもしれません。ユーザーにとっては、「便利さ」と「プライバシー」の両方を求められる時代になるでしょう。
ただし、注意すべき点もあります。Conferはまだ新しいサービスであり、長期的な信頼性や安定性はこれから証明されていく段階です。また、月額35ドルという価格は、すべての人が気軽に利用できる金額ではありません。プライバシー保護が「お金を払える人だけの特権」にならないよう、今後の価格設定や無料プランの拡充が期待されます。
