ヤン・ルカン氏の新会社AMI Labs、現実世界を理解するAI開発へ

AI科学者ヤン・ルカン氏がMetaを退職し、2026年1月にAMI Labsを設立。現実世界を理解する「ワールドモデル」AI開発を目指す。パリに本社を置き、35億ドル評価で資金調達の可能性。

ヤン・ルカン氏の新会社AMI Labs、現実世界を理解するAI開発へ

2026年1月、著名なAI科学者ヤン・ルカン氏がMetaを退職し、新会社AMI Labsを設立しました。同社は今週、公式ウェブサイトを開設し、「ワールドモデル」と呼ばれる技術の開発に取り組むことを明らかにしました。ワールドモデルとは、現実世界の物理法則や因果関係を理解できるAIモデルのことです。例えば、物を落とせば重力で下に落ちる、といった常識的な知識をAIに持たせる技術です。この分野は現在、AI研究の最前線として注目を集めており、トップクラスの科学者と大規模な投資家の関心を集めています。AMI Labsは35億ドルの評価額で資金調達を行う可能性があると報じられており、医療、ロボット工学、産業プロセス制御など、信頼性と安全性が重要な分野への応用を目指しています。

AMI Labsの事業内容と目標

AMI Labsは「Advanced Machine Intelligence」の略で、現実世界を理解する知的システムの構築を目指しています。同社の公式ミッションステートメントによれば、「真の知性は言語から始まるのではなく、世界から始まる」という信念のもと、AI研究を進めるとしています。

具体的には、信頼性、制御可能性、安全性が重要となる産業プロセス制御、自動化、ウェアラブルデバイス、ロボット工学、医療などの分野でのアプリケーション開発を計画しています。同社のAIシステムは、現実世界を理解するだけでなく、持続的な記憶、推論と計画の能力を持ち、制御可能で安全であることを約束しています。

ビジネスモデルとしては、開発した技術を産業パートナーにライセンス供与する計画です。同時に、オープンな論文発表とオープンソースを通じて、世界中の学術研究コミュニティとともにAIの未来を構築することも表明しています。

経営陣と組織体制

重要な点として、ルカン氏はAMI Labsの会長を務めますが、CEOではありません。CEO職には、パリとニューヨークにオフィスを持つ医療AI企業Nablaの共同創業者兼CEOだったアレックス・ルブラン氏が就任しました。

ルブラン氏のAMI Labsへの移行は、2025年12月にNablaが発表したパートナーシップの一環です。この提携により、NablaはAMI Labsのワールドモデルへの優先的なアクセス権を得る代わりに、ルブラン氏がCEOから最高AI科学者兼会長へと役割を変更することを支援しました。

ルブラン氏は以前、Wit.aiという企業を創業し、Facebookに買収された後、MetaのAI研究所FARIでルカン氏のもとで働いていました。報道によれば、Metaのヨーロッパ担当副社長を2025年12月に退任したローラン・ソリー氏も、この二人に加わる予定です。このように、AMI LabsとMetaの間には人材の重なりが見られます。

資金調達と投資家

AMI Labsは35億ドルの評価額で資金調達を行う可能性があると報じられています。Bloombergによれば、同社と交渉中のベンチャーキャピタルには、Cathay Innovation、Greycroft、Hiro Capitalが含まれています。ルカン氏はHiro Capitalのアドバイザーを務めています。

その他の潜在的な投資家としては、20VC、Bpifrance、Daphni、HV Capitalなどが報じられています。ルカン氏の実績と評判を考えれば、ベンチャーキャピタルが同社への投資に強い関心を示すことは間違いないでしょう。

この評価額は、直接の競合企業であるWorld Labsと比較しても遜色ありません。AI研究の先駆者フェイフェイ・リー氏が創業したWorld Labsは、ステルスモードから脱却した直後にユニコーン企業となり、物理的に正確な3D世界を生成する初の製品Marbleを発表した後、50億ドルの評価額で新たな資金調達を行う交渉中と報じられています。

背景と経緯

ワールドモデルの開発は、現在AI分野で最も注目される研究テーマの一つとなっています。これは、AIと現実世界を橋渡しする基盤モデルを構築する取り組みで、製品がまだ存在しない段階でも、トップクラスの科学者と大規模な投資を引き寄せています。

ルカン氏は、MIT Technology Reviewに対し、Metaが最初の顧客になる可能性があると述べています。しかし同時に、マーク・ザッカーバーグ氏の指揮下で行われたMetaの戦略的選択の一部について、公然と批判的な立場を取ってきました。より広い視点で見ると、AMI Labsは大規模言語モデル(LLM)に対する逆張りの賭けと解釈されています。

大規模言語モデルとは、ChatGPTのような、大量のテキストデータから学習して文章を生成するAIのことです。ルカン氏が指摘するLLMの限界には、ハルシネーション(事実と異なる内容を生成してしまう現象)が含まれます。これは医療のような文脈では深刻な懸念事項であり、ルブラン氏も医療AI企業での経験から直接理解しています。

技術的なアプローチ

AMI Labsは、生成的アプローチとは異なる技術を採用します。ルカン氏とそのチームは、センサー入力のような予測不可能なデータには生成的アプローチが適していないと考えています。

生成的アプローチとは、テキストや画像を新たに作り出す方法のことです。例えば、ChatGPTが質問に対して文章を生成したり、画像生成AIが絵を描いたりするのがこれにあたります。しかし、ロボットのセンサーが受け取る現実世界の情報は、毎回異なり予測が難しいため、この方法では対応しきれないとルカン氏は主張しています。

代わりに、ワールドモデルは現実世界の物理法則や因果関係を学習し、「もしこうしたら、こうなる」という予測を立てられるようにします。これにより、AIは現実世界での行動の結果を事前に理解し、より安全で信頼性の高い判断ができるようになります。

できること・できないこと

AMI Labsのワールドモデル技術により、現実世界の物理法則を理解したAIシステムの構築が可能になります。例えば、医療分野では患者の状態変化を正確に予測したり、ロボット工学では物体の動きを事前にシミュレーションして安全な動作を計画したりといった使い方が考えられます。産業プロセス制御では、機械の動作を予測して故障を未然に防ぐことも期待されます。

ルブラン氏はForbesに対し、この役職を引き受けた大きな理由の一つが、ワールドモデルを医療に応用できる見込みだったと語っています。医療では、誤った判断が患者の生命に関わるため、ハルシネーションのような問題を起こさない信頼性の高いAIが必要とされています。

一方で、この技術はまだ開発段階にあり、実用化までには時間がかかる可能性があります。現時点では具体的な製品は発表されておらず、研究開発の段階です。また、現実世界のあらゆる状況を完璧に予測することは技術的に困難であり、特定の分野や用途に限定した応用から始まるでしょう。今後数年間で、パートナー企業との協力を通じて実用化が進められる見込みです。

私たちへの影響

このニュースは、AI技術の発展に関心を持つ人々、特に医療、製造業、ロボット工学などの分野で働く専門家に大きな影響を与えます。AMI Labsの技術が実用化されれば、これらの分野でより安全で信頼性の高いAIシステムが利用できるようになる可能性があります。

短期的な影響については、AI研究の方向性に変化が生じる可能性があります。大規模言語モデル一辺倒だったAI開発のトレンドに対し、現実世界を理解するワールドモデルという別のアプローチが注目を集めることで、研究資金や人材の流れが変わるかもしれません。

中長期的な影響としては、医療診断の精度向上、産業用ロボットの安全性向上、自動運転技術の信頼性向上などが考えられます。特に、人命に関わる分野や高額な設備を扱う産業では、予測可能で制御可能なAIシステムの需要が高まるでしょう。

ただし、この技術が実際に社会に広く普及するまでには、まだ多くの研究開発と実証実験が必要です。また、AMI Labsがオープンソースでの貢献も表明していることから、学術界との協力がどのように進むかも注目されます。ルカン氏はニューヨーク大学の教授職を維持し、年に1つの授業を教え、博士課程とポスドクの学生を指導し続ける予定です。

グローバル展開とパリ本社の意義

ルカン氏はニューヨークを拠点としますが、MIT Technology Reviewに対し、AMI Labsは「パリに本社を置くグローバル企業になる」と述べています。同社はモントリオール、ニューヨーク、シンガポールにもオフィスを構える予定です。

パリを本社に選んだことは、フランスのエマニュエル・マクロン大統領から歓迎されました。チューリング賞受賞者でもあるフランス生まれのルカン氏がパリを選んだことに誇りを表明し、「フランスから彼の成功を確実にするためにできる限りのことをする」と述べています。

この決定は、パリをAIハブとしての評判を強化するのに役立ちます。パリには既に、H、Mistral AI、そしてFAIRを含む複数の国際的な研究所が拠点を置いています。AMIという社名がフランス語で「友達」を意味する「ami」と同じ発音であることも、ルカン氏が指摘している興味深い点です。

出典:Who’s behind AMI Labs, Yann LeCun’s ‘world model’ startup(techcrunch.com)

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