ワーナー・ミュージック・グループが2025年11月、AI音楽スタートアップSunoと提携契約を締結し、著作権訴訟を和解。アーティストが自身の名前や声のAI利用を完全に管理できる仕組みを導入。音楽業界のAI対応が大きく転換。
ワーナー・ミュージック、AI音楽企業Sunoと提携・訴訟和解でアーティスト保護の新モデル構築
ワーナー・ミュージック・グループ(WMG)は2025年11月25日、AI音楽生成スタートアップのSunoと提携契約を結び、同時に著作権侵害訴訟を和解したと発表しました。この契約により、レディー・ガガやコールドプレイなどWMG所属のアーティストと作曲家は、自分の名前、画像、肖像、声、楽曲がAI生成音楽にどのように使われるかを完全に管理できるようになります。WMGはまた、ライブ音楽情報プラットフォームのSongkickをSunoに売却したことも明らかにしました。この提携は、音楽業界がAI技術に対して訴訟から協力へと大きく方針転換したことを示す重要な出来事です。2024年に大手レコード会社3社がSunoを著作権侵害で訴えていましたが、WMGは和解を選び、AI時代の新しいビジネスモデルを構築する道を選びました。この動きは、クリエイターの権利を守りながらAI技術を活用する業界の新しい方向性を示しています。
提携契約の具体的な内容
今回の契約により、Sunoは2026年に現在のAIモデルを、より高度でライセンス許諾を受けた新しいモデルに置き換える予定です。新しいモデルでは、WMGが管理する音楽カタログを適切にライセンスした上で利用します。
サービスの利用形態も変更されます。Sunoで生成した音楽をダウンロードするには有料アカウントが必要になり、無料プランのユーザーはプラットフォーム上で音楽を再生したり共有したりすることのみが可能になります。この変更により、アーティストへの適切な報酬還元の仕組みが整備されます。
最も重要な点は、アーティストの権利保護です。WMG所属のアーティストと作曲家は、自分の名前、画像、肖像、声、そして楽曲がAI生成音楽でどのように使われるかについて、完全な管理権を持ちます。つまり、自分の声に似た音楽が勝手に作られることを防げるのです。
背景と経緯
この提携に至るまでには、激しい対立の歴史がありました。2024年、ワーナー・ミュージック・グループ、ユニバーサル・ミュージック・グループ、ソニー・ミュージック・エンタテインメントの大手レコード会社3社は、SunoとUdioという2つのAI音楽スタートアップを著作権侵害で訴えました。
レコード会社側の主張は、これらのAI企業が許可なく大量の楽曲を学習データとして使用し、既存アーティストの作品に似た音楽を生成できるようにしているというものでした。音楽業界は、無断でアーティストの創作物が利用されることに強い危機感を抱いていたのです。
しかし、2025年11月に状況は大きく変わりました。WMGは1週間前にUdioとも和解し、ライセンス契約を結んでいます。Udioとの契約では、2026年にAI音楽制作サービスを共同で立ち上げる予定です。そして今回、Sunoとも和解に至りました。
この方針転換の背景には、AI技術の急速な普及と、それを止められないという現実認識があります。対立を続けるよりも、適切なルールを作って協力する方が、アーティストの権利も守れるし、新しいビジネスチャンスも生まれるという判断です。
Sunoの成長とSongkick買収
Sunoは急成長しているAI音楽スタートアップです。2025年11月、同社は2億5000万ドル(約375億円)のシリーズC資金調達を完了し、企業価値は24億5000万ドル(約3675億円)に達しました。この資金調達ラウンドは、ベンチャーキャピタルのメンロー・ベンチャーズが主導し、エヌビディアの投資部門NVenturesも参加しています。
投資家たちがSunoに大きな期待を寄せているのは、ユーザー数と収益化の両面で急速に拡大しているためです。WMGのロバート・キンクルCEOは「Sunoはユーザー数と収益化の両面で急速に成長しており、この機会を捉えて収益を拡大し、新しいファン体験を提供するモデルを形作った」と述べています。
今回の契約には、もう一つの重要な要素があります。WMGは、ライブ音楽とコンサート情報を提供するプラットフォームSongkickをSunoに売却しました。売却額は公表されていません。WMGは2017年にSongkickのアプリとブランドを買収していましたが、チケット販売事業は後にライブ・ネーションが取得していました。
Songkickは今後もSunoの傘下でファン向けサービスとして継続されます。この買収により、Sunoは音楽生成だけでなく、ライブ音楽体験の提供にも事業を拡大することになります。
できること・できないこと
この提携により、音楽ファンとクリエイターには新しい可能性が開かれます。例えば、アマチュアミュージシャンが有名アーティストのスタイルを参考にしながら、適切にライセンスされた形で自分の音楽を作ることができるようになります。また、ファンが好きなアーティストの雰囲気を持つオリジナル曲を作って楽しむこともできるでしょう。ただし、これらはすべてアーティストの許可の範囲内で行われます。
一方で、制約もあります。アーティストが許可していない場合、その人の声や楽曲の特徴を使った音楽は生成できません。また、無料プランでは音楽のダウンロードができず、プラットフォーム上での再生と共有に限定されます。商業利用や本格的な音楽制作には有料アカウントが必要になります。
新しいライセンスモデルは2026年に導入される予定ですが、具体的な料金体系やライセンス条件の詳細はまだ明らかになっていません。今後数ヶ月の間に、より詳しい情報が公開されるでしょう。
私たちへの影響
このニュースは、音楽を聴く人、作る人、そして音楽業界全体に大きな影響を与えます。音楽ファンにとっては、AI技術を使った新しい音楽体験が広がる一方で、好きなアーティストの権利が守られるという安心感も得られます。
短期的には、Sunoのサービスが2026年に大きく変わります。より高品質で、適切にライセンスされた音楽生成が可能になる一方、無料で使える範囲は制限されます。音楽制作に興味がある人は、有料プランへの移行を検討する必要があるかもしれません。
中長期的には、音楽業界全体のAI対応が進むでしょう。WMGに続いて、ユニバーサル・ミュージック・グループとソニー・ミュージック・エンタテインメントもSunoやUdioとのライセンス交渉を進めていると報じられています。大手レコード会社がすべてAI企業と協力関係を結べば、業界標準のルールが確立され、アーティストの権利を守りながらAI技術を活用する道筋が明確になります。
ただし、注意すべき点もあります。アーティストの権利管理の具体的な仕組みや、報酬の配分方法など、まだ不透明な部分が多く残っています。また、小規模なアーティストや独立系ミュージシャンの権利がどのように保護されるかも、今後の重要な課題です。音楽業界のAI活用は始まったばかりであり、これからも変化が続くでしょう。
